第40話 あざとい幼馴染の攻勢とチョロすぎる俺のラブコメディ(と見せかけてのホラー回)
土曜日である。
町内にある
「そりゃ、そりゃ、そりゃそりゃそりゃ!」
「たかくん、気合いがすごい!」
「だろ? 草むしりなら俺に任せろ!」
「あのね、孝巳。必死にやろうがやるまいが、時給は同じよ?」
「けれど一生懸命やれば、また次の依頼が来るかもしれないだろ? だから俺は励むんだよ! そりゃそりゃそりゃそりゃ!!」
「孝巳くん、全力……」
俺と栞と歌音と瑠々子。
いつもの4人は、草むしりのアルバイトをしていた。
古本屋の片付けをするバイトが終わって、翌日。
栞がバイトの話を持ってきたのだ。
「知り合いのお寺さんが、草むしりをするひとを探してるんだって。だから草むしり、しにいこう!」
「寺の草むしりなんて、その寺のひとがするもんじゃないの?」
と、歌音が言ったが、栞は首を振り、
「いまはお寺のひとが少ないから、草むしりをする人手が足りないんだって~。高校生でもいいから、草むしりをしてくれるひとならいいらしいよ。どう、たかくん」
俺としては異論などない。
そんなわけで、栞が見つけてきた草むしりの仕事に朝から励んでいるわけだが、
「……疲れた」
2時間もむしると、まず瑠々子が石の上に座り込んでしまった。
「少し、休憩……」
「ああ、休め休め。瑠々子は無理するな」
インドアの瑠々子が、2時間も草をむしり続けるのはさぞ難儀だっただろう。
空はうっすら曇り空。気温も初夏のわりには涼しいほうだが、それでもずっと動いていれば疲れもする。
「なによ、アンタ。瑠々子にはずいぶん優しいじゃない」
「日ごろの体力を考えたまでだよ。歌音はあと8時間はやれそうだな」
「まあそうね! 8時間どころか80時間でも、ってそんなにできるかーい! なんて」
「たかくん、休憩しよう。かのちゃんがちょっと壊れ気味だ~」
「ああ、まさか歌音がノリツッコミをするなんてな。しかもちっとも面白くないし――」
「傷つくダメ出しやめてくれる!? なによ、あたしなりに空気を読んでボケたのに。いいわよ、本当にあと80時間ぶっ続けで仕事してやる――」
「歌音さん。……カバンの中で電話が鳴っている」
「は!? 誰よ。……ちょっと待っててね、みんな」
歌音は、石の上に置かれてあるカバンを持って、そのままどこかへ行ってしまった。「――ああ、ママ? なによ。……え、ごめん、聞こえない――」なんて喋っている。どうやらお母さんからの電話みたいだな。
「たかくん、わたしたちも少し、休む? 住職さんから、好きな時間に休憩を挟みながらでいいって言われてるから」
「そうだな。水分補給しよう。飲み物、買ってくるわ。栞と瑠々子、なにがいい?」
「私はここに麦茶を用意してある」
瑠々子はペットボトルを掲げた。
用意がいいな。
「わたしも、じつはスポドリを人数分、粉末から作ってきたんだ~。飲み物代こそ節約しなきゃね」
「もっともだ。さすが、栞だな」
旅行代のためにバイトをしているのに、飲み物を買うのは確かにもったいない話だ。
栞と瑠々子を見習わないといけないな。
「じゃ、お寺の中に置いてきたドリンク、取りにいってくるね~」
「4人分は重いだろ。俺もいくよ」
「別にドリンクくらい、重くもないけれど。……じゃ、お願いしようかな」
「よし。じゃ瑠々子、ちょっとここで待っててくれ」
「了解」
そんなわけで、俺と栞は寺の中に入ったのだ。
しいんと静まりかえった内部。
住職さんは出かけているらしい。
玄関から、入ってすぐのところに小さなクーラーボックスが置かれてあった。これだな?
しかし、寺の中に入ると、俺も急に疲れが出てきた。
汗がにじみ出てくるぜ。
「もう夏だな。暑さを感じる」
「ね。わたしも汗かいてきた。……あ、ここにタオルあるけれど、使う?」
「ああ。サンキュー」
栞が淡いピンク色のタオルを差し出してくる。
それで汗をぬぐうと、……なんだかいい匂いがする。
「ね、次、わたしにも貸して」
「あ、ああ。……いや、いいのか? 俺が使ったタオルだぞ」
「いいよ~。だって幼馴染じゃん。小さいころは、お風呂から上がったあと、同じタオルで身体を拭いたことあったじゃん」
「いつの話だよ、それ――」
と言いながらタオルを栞に差し出すと。
汗で、前髪がべったりとおでこに貼りついた栞がそこにいた。
ちょっと頬が赤くなっているのは、草むしりに励んだからだと思うが。
それにしても、日ごろ栞が、汗をかいている姿をそんなに見ないだけに、なんだか新鮮な気がして、――可愛い。
い。
いやいや。
ダメだ、ダメだ。
なにを考えてるんだ、俺は。
いつもの栞だぞ。というか汗をかいただけだぞ。
汗かきの幼馴染を見るだけで可愛く感じるとか、俺はどれだけ飢えてるんだ!?
ダメだ。
ダメだ、ダメだ、ダメだ――
「たかくん、さっきから、なに首を振ってるの?」
「い、いや。……ちょっと、暑さがね……」
「…………ふう~ん……?」
栞は、じっと俺の顔を覗き込んできて。
かと思うと、にやり。……と笑って、
「ねえねえねえ、たかくん! 鍋田寺に来ると思い出さない? ほら、小学生のとき、夏休みに町内会で肝試しをしたことがあったじゃん。あれ、ここだったよね~」
「え。そうだったっけ……」
「そうだよ~。でね、でね、わたしとたかくんのふたりで、墓場の中を歩いて。わたし、すっごく怖くなって、たかくんにぎゅっと抱きついて。そしたらね、たかくん、顔が真っ青なのに『だいじょうぶだ!』って強がっちゃって!」
「そんなことあったか?」
これはマジで忘れている。
肝試しをしたような記憶はあるが、栞に抱きつかれたかというと、どうだったっけ?
「あったよ~。わたしはバッチリ覚えてるもん。……こんな感じだったよ?」
ぎゅっ。
栞は。
俺に抱きついて、きた。
「お、お……う!?」
「へへ~。10年ぶりだね、このお寺で抱きつくの。……こ~んなふうに、ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう」
「おっ、おっ、おっ」
「ぎゅぎゅぎゅのぎゅ」
「おおお、おっ♪」
栞からテンポよく、何度も抱きつかれて。
栞の髪の毛の香り。汗で微妙に湿った二の腕同士の接触。
そして、なによりも、柔らかい、そりゃもう柔らかい栞の身体。
やばい。
栞が可愛い。
顔とか身体とか、あとスポドリやタオルを用意してくれたような気の利くところとか、バイトを見つけてきてくれた健気さとか、なんかいろいろ見えてきて、可愛い。
「ねえ、たかくん」
「うっ!? ……な、なんですか……?」
「……ふふふ~。腕が震えてますよ~?」
栞は、赤くなりながら。
そう、今度は草むしりをしたからではない、きっと別の理由の真っ赤さで。
「抱きしめ返して、ほしいな。……だめ?」
うっ!
うっ!
うっ!
上目遣い……。
あざとい……。
あざといけれど……。
でも、他になにも考えられないくらい、栞が可愛い……。
「し……」
「し?」
「栞っ……!」
俺は思わず、両手をおおぞらに羽ばたく鳥の翼のようにクワーッと開き、栞を抱きしめようとして――
そのときであった。
がたん。
寺の奥にある引き戸の向こうから、音がした。
がたん、がたん。がたがたがた。
「「!?」」
俺と栞は、思わず固まった。
引き戸の向こうには、住職さんのための部屋があるはずだ。
しかし住職さんは外出中だ。それは間違いない。歌音は電話中、瑠々子は休憩中だ。
ここに。
誰もいるはずが、ない。
それなのに。引き戸の向こうには間違いなく何者かが潜んでいて、ガタガタと引き戸を揺らしていて、
「わ……。……き……」
出た!?
場所が墓の近くなので、どうしてもそういうことを考えてしまう。
お化け!? 亡霊!?
な、なんなんだ、いったい!!
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