第23話 勝ちヒロインの行方を追え 孝巳とかえでの兄妹推理ノート

「アニキ。彼女のことなんだけどさァ」


 ある日の夜。

 リビングで、ゲームをしているかえでが、テレビに目を向けたまま言った。


 出し抜けだったので、俺はちょっと驚いたが、


「織芽がどうした?」


 とりあえず、冷静に返す。

 するとかえでは、ゲームを続けながら、


「ウチさ、今日、担任の先生に聞いたんだよね。


 前の生徒会長の神山さんが、会長選挙のためにメッセージをくれたじゃないですか。あれってどうやったんですか、って」


「マジか」


 今度は本当に驚いた。

 かえでが俺のために、動いてくれるなんて。


「先生、なんて言った?」


「学校のほうから、福岡にいる神山さんの家に電話をかけて、それでメッセージをもらったんだって。家電いえでんだよ、家電」


「家の電話か。最近はあんまり見ないけれど。……まあ、ウチにも、あることはあるもんな」


 リビングの片隅に置かれてある、電話機に目をやる。


 両親がもう何年も前に、FAXが必要だからって買って、取りつけたものだ。


 最近はそのFAXもあまり使っていないけれど。


「だからさ、ウチ、担任にもっと聞いたわけさ。神山前会長とおしゃべりしたいから、家の電話番号を教えてくれませんかって」


「お、おお! そうしたら?」


「092……って言ったところで、いやすまん、個人情報だから教えられんわ,って。断られた」


「なんだよ、それ!」


 あと少し。

 もう少しで。

 織芽とまた繋がれそうだったのに!


「個人情報って、生徒が聞いても漏らさないのかよ」


「ウチもそう思うんだけどさァ」


 と言いながら、かえではようやく、ゲームをいったん止めて振り返り、


「最近は、子供を通じてほかの家の情報を、ろうとするひともいるんだって。


 それが振り込め詐欺に繋がったケースもあるらしいから。


 だから学校のほうも、かなり神経質になってるんだってさ」


「くそっ、世知辛いな。なんとかならねえのか」


 俺は思わず頭を抱えたが、そのときふと気が付いた。


「かえで。織芽の家の電話番号、092……っていったよな?」


「うん、そこまでは聞いた。でもその後が長いんじゃね?」


「それはそうなんだが、ちょっと待ってくれ」


 俺はスマホを取り出して、操作を始めた。


 092……の番号からスタートすると、これは福岡市の電話番号だ。


「違う」


「なにが?」


「聞いていた織芽の家と、住所が。……俺、中学卒業のときに、織芽から聞いたんだ。福岡県の北九州市に引っ越す、って。だから俺、前に送った手紙も、北九州に向けて送ったんだけど」


「でも、いまの前会長の電話番号は、福岡市になっている、ってわけ? あれ? じゃ、もしかしてお兄ちゃん!」


 かえでは興奮しているのか、俺のことをお兄ちゃんと素の口調で呼びながら、


「前会長、また引っ越したんじゃない!? 最初は北九州市に住んだけれど、なにか理由があって、福岡市のほうに引っ越して。家の電話番号もそのときに変わって。……きっとそうだよ! だからお兄ちゃんの手紙も、もしかしたら、届いてないんじゃない!?」


「そ、そう、か……?」


 言われてみれば、そうかもしれない。


 俺の手紙は届いていないのか?


 だから返事も反応もないのか?


 そういうことなのか?


 これは……。

 もしかして、希望をもっていいのか!?


「お兄ちゃん、前会長は、神山さんは、お兄ちゃんと別れたいなんて思ってないよ、きっと。家の事情で、返事ができないんだよ!」


「そうか。そうか! そうだよな! ははっ……!」


「希望が出てきたじゃん! やったよ。これでお兄ちゃん、また前会長と会えるよっ! あははっ、やったね!」


「おう、やった!」


 かえでがくれた情報で、俺は思わず笑みをほころばせた。


 やっほう、やっほう、いやっほうと叫び回りながら、自室に戻ってからも思わず踊ってしまい、


『たかくん、どうしたの? なにか変なものでも食べた?』


『お姉さんに話しなさ~い』


 なんてラインが、栞から送られてきたくらいだ。


 隣の家に聞こえるほど、俺ははしゃぎまわっていたらしい。


『大したことじゃねえよ。でも明日話すわ』


 俺はそれだけ返事して、その後もベッドの上で転げ回り、織芽との縁がまた復活できそうなことを喜んでいた。


 栞から、『???』というラインが来ても、構わずにニヤニヤしていたのである。


 織芽。

 織芽、そうだよな。

 俺たち、また会えるよな、織芽!




 そう思っていたのだが。


 翌日、俺は地獄に落ちることになる。

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