第20話 負けヒロインたちとの混浴(そして主人公、存在がバレる)
俺の前に現れた全裸のもみじ。
顔が真っ赤。
というか全身が真っ赤だ。
「熱い! 熱いよ、温泉が!!」
「は? いまさらなに言ってんだ?」
もうこのビルに入って30分くらい経つのに、いまさら温泉が熱いとか言われても。
どういうことだ。
俺は家族風呂の中に入っていった。
家族風呂は、入るなり、8畳のお茶の間みたいな部屋があり、ちゃぶ台とテレビが備え付けられていた。ここで休むことができるわけだ。
テレビは点きっぱなしになっていて、ちゃぶ台の上にはもみじのスマホが置かれてある。
ふむ。
「もみじ。ここでテレビを見ながらスマホを楽しんで、それからやっと温泉に入ったな?
で、その温泉が激アツだったので、慌てて飛び出したところへ俺が来た、と。そういう流れだな?」
「そうだよ! そうだから、推理は分かったから、早くなんとかして!」
「分かった、分かった」
お茶の間の奥に、隣の部屋へと向かう薄い引き戸がある。
その引き戸を引くと、脱衣所があり、そして脱衣所の隣には、我が家の浴槽の3倍近くある、それは大きな岩風呂が。
俺は黙って、岩風呂の中に指をつけた。
「普通じゃないか。こんなので熱いとか言うなよ」
「熱いものは熱いの。ウチが猫肌なのは知ってるくせに!」
「猫舌ならぬ、な。男湯の温泉もこれくらいだったぞ。これで熱いって言ってたら、ここの風呂はどこにも入れないぜ?」
「む~! ……もういい。ウチ、ゲームしてくる!」
「もみじ!」
「なに!」
「服は着ていけよ」
ここまでもみじは、ずっと全裸だったのである。
「お兄ちゃんのスケベ! 変態! エロ助! ううああああああ!!」
「もみじ!」
「なに!」
「アイスはいらないか?」
「もらう!」
もみじは大慌てで服を着て、俺の手からチョコアイスを奪って、家族風呂から出ていってしまった。
「本当に出ていったな。あーあ、もったいねえ。せっかく温泉に来たのにろくに浸からねえとか」
岩風呂はもくもくと湯気を出している。
気持ちよさそうだ。
せっかくだから、俺が入るか。
このままじゃあまりにも、もったいないからな。
幸い、ここの脱衣所にもタオルは置かれてあるし。
よし、そうしよう。
そんなわけで俺は再び全裸となり、着ていた服を脱衣所の隅に押し込んで、ザブンと岩風呂に浸かったのだ。
「うおおお、気持ちいい……!」
熱さもやっぱり、ちょうどいいじゃん。
肩までつかると、体中に血が流れ始めたようでマジで快感だ。
かえでのやつ、これに入らないなんてもったいなすぎるぜ――
「わぁ~、これが家族風呂!?」
ん?
「いいわね。こっちのほうがゆっくりできそう」
え?
「棚の中にお茶っ葉とケトルがある。お茶もサービスとは気前がいい」
おほ?
お茶の間から声が聞こえてきた。え、まさかこの声、もしかして栞たち――
がらり。
音を立てて引き戸が引かれ、想像通り、栞と歌音と瑠々子の3人が、一糸まとわぬ姿で入ってきた。
「ちょ、まっ……!?」
俺は慌ててお湯の中に潜り、左右を探して、なんとか岩陰を見つけて、そこで鼻のあたりまでを湯の上に出した。
なんで栞たちがここに!?
「やった~、岩風呂だ。女湯の露天とは岩の色が違う~」
「脇谷さんも、このお風呂が苦手だなんて贅沢よね。ゲームなんかどこでもできるんだから、温泉に入ったらいいのに」
「ところで、孝巳くんはどこ」
「そういえばいないね~」
栞たちがおしゃべりをしている。
分かってきたぞ。
栞たちは、女湯を出たあと、かえでと出会ったんだ。それで自分はゲームをするから家族風呂に行ったらどうかと提案されて、ここにやってきたんだ。
くそ、俺がお茶の間にいれば。
というかせめて普通に温泉に浸かったままでいれば、こんなことにはならなかったのに。
どうして俺は隠れてしまったんだ!?
栞たちも気付けよ。
脱衣所の隅に俺の着替えがあるだろうが。
いや、湯気でよく見えないんだろうけれど!
「栞、アンタ本当に大きい~。いつからそんなに育ったの?
中3のときにはもう、けっこうあったわよね?」
「ん~、そうだねえ。本格的になったのは中1の夏くらいから、かな~?」
「中1の夏は早い。そのころは私なんか、毎日がキャミソールとTシャツだった。……いまでも」
「瑠々子は背も高いし、足が長いからいいじゃない。スレンダーがうらやましいわ。あたしなんか、お腹のあたりがちょっと最近さあ」
「でも、その分、ふとももがいい感じじゃない? 健康美っていうか~」
神は俺を殺したいのか。
お湯の上に目と鼻だけを出して、栞たちのおしゃべりを聞きながら、湯気の向こうに嫌でも見えてしまう、彼女たちのあられもない姿。
明らかに高1女子の平均を超えたバストサイズを誇る、全裸の幼馴染。髪の毛を洗うときに上下する胸元がいやでもこちらを刺激する。その上、小さいころから彼女を知っている、そんな彼女の成長を実感できる優越感に浸れる、栞。
牛乳を溶かし込んだような真っ白な素肌に、貼りついた金髪は、まるで海外の映画の女優のよう。その上、栞の言葉通り、ふとももの太さがジャストサイズ。プロレス技の首4の字をかけられたらあえなく昇天させられてしまいそうな、蠱惑的健康美を誇る、歌音。
腰の細さと足の長さが、モデルとしか思えないほどバランスがよく、その上、腰まで伸びた黒髪がビューティフル。下界に舞いおりた女神としか思えないほどバランスのいい肢体を、どこか恥ずかしげに、同性の前でもそれとなく隠そうとするところがいっそう愛らしく見える、瑠々子。
ほっ、ほっ、ほっ。
俺は鼻から不気味な音をたてて呼吸する。
しかも温泉独特の、身体の芯まで伝わってくる熱量が、心臓までもわしづかみだ。
こんなにも窮地なのに。
こんなにもピンチなのに。
思わず、栞たちのほうに目をやってしまう。
「ばっ、……やめ、おれ」
思わず叫びそうになって、またお湯に身体をつける。
馬鹿。
やめろ。
俺には織芽がいる。
と、言いたかった。
やっぱり俺は浮気野郎だ。
この状況になっても、温泉を飛び出さず、むしろ栞たちを見てしまう。
「よ~し、入ろう」
「熱っ。あ、でもちょうどいいかも」
「足からゆっくり入って、血行をよくするといいと本に書いてあった」
3人がいよいよ岩風呂に入ってくる。
いくら大きめの風呂とはいえ、3人も人間が入ってきたら、さすがに俺の存在がバレる。
どうする!?
どうしたらいい!?
ほら、漫画とかだとこういうとき、誰か都合よく助けに来てくれるだろ? 例えばかえでが戻ってくるとか。
それかビルで火事が起きるとか、なんかトラブルがあって。すべてうやむやになるんだ。そうだろ? そうだろ、そうだろ、そう――
「たかくん?」
「え」
声をかけられた。
半分、妄想の世界にいた俺は、それで引き戻された。
目の前には、栞。
と、歌音と瑠々子。
全裸の3人が、ばっちりと俺を見ている。
目が合った。
確実に、認識されている。
こういうときに限って、湯気もあまり出ていない。
「っ、きゃああああああああああああああっっ!!」
歌音が、おたけびをあげた!
終わった!
もうだめだ、ここが俺の人生最終回っ……!!
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