第18話 幕間・扇原瑠々子の恋と友情

 扇原瑠々子は、考える。


(孝巳くん。少しは私のこと、意識してくれたかな)


 まったく偶然だった。

 自宅前の駅ビルにやってきたら、孝巳と出くわすなんて。


(本当。こんなことになるなら、彼の好みのブレザー姿。……もとい)


 せめてもうちょっと、可愛い服で行けば良かった。


 中学時代、おしゃれにとんと気を遣わなかった自分。読書のことばかり考えていた自分。


 そのせいで、織芽に敗北し、失恋してしまった。


(もうちょっと、頑張っておけば。もっと、頑張っておけば)


 だから今日、ばったり孝巳と出会ったとき。


 これこそ僥倖。

 と思って、自分なりにアピールをしてみた。


(カレーうどんは、あれでよかったの……?)


 面白い女と言われたい。

 織芽のように、明るい女の子になって、孝巳の心をつかみたい。


 その一心だった。


 うまくいったかどうかは分からない。


 けれども。


(……ふふ)


 思わず、笑みがこぼれ出る。


(孝巳くんと、本屋さんに。ふたりきり。カフェで、ふたりきり。並んで、本を読めた。……ふふふ……)


 幸せだった。

 これだけでも、本当に楽しかった。


 できるなら。

 もう一歩。あと一歩。

 孝巳に近付きたい。


(……織芽さんは、いまなにをしているの? 分からない。友達として、もう一度会いたい。もう一度……)


 そして。

 願うならば、中学時代のように。


 友達がいなかった自分に、初めて仲間と呼べるものができたあの時間に、あと一度だけ、戻りたい。


 瑠々子は、恋も友情も欲しかった。


(欲張り、だろうか)


 そうかもしれない。

 けれども。

 それでも。


 瑠々子は。

 欲しかったのだ。

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