第15話 フラれたツンデレ、過去のラッキースケベを回想されて悶えまくる

「歌音。もしかして、俺のことがまだ、好きなのか?」


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!」


 歌音は。

 トマトみたいに真っ赤になった。

 その上、汗がダラダラダラ。


 風が強くて、涼しい日なのに。

 炎天下に直立しているような汗かきぶりを見せはじめた。


「歌音、大丈夫か? いや、人として、純粋に……」


 このまま放っておいたら、脱水症状で死ぬと思う。


「だ、大丈夫よ。これは汗じゃないわ。涙よ。目にゴミが入って……」


「額から噴き出る涙があるかよ」


「特異体質なのよ!」


「初耳だぞ、そんなの」


「と、とにかく。ちがうの!」


「なにがだよ」


「あたし、別に、いまもまだ、好きとか、そういうわけじゃ」


「だって、さっきの話の流れじゃそんな感じにしか聞こえねえよ。


 それに歌音、昔の告白の話とか、織芽の話をしたらすぐムキになるし、だから歌音。


 歌音って、もしかしてまだ、俺のこと、好きでいてくれて」


「ロジハラやめてーっ!! なんでそんな畳みかけるように問いつめてくるのよ! ほんと、変なところだけ気が付くし!」


「いや、だって」


「だってじゃない! 気配りのポイントズレてんのよ、アンタは! いつも、いつも……」


 そのときだった。

 また、強い風が吹いた。


「っと……」


 俺は思わず、目をつぶる。

 風はすぐにおさまった。目を開ける。

 すると、当たり前だが、歌音はまだ目の前にいた。


 ただ、前髪がべったりと、おでこに貼りついている。

 あれだけ汗をかけば、髪が濡れて当然だ。


「……ほらよ」


 俺はポケットからハンカチを出して、差し出した。


 本当はおでこを拭きたいところだが、さすがにそれは厚かましいというか猥褻じみてる。


 相手が織芽や栞だったら、やってると思うけれどな。


「あ、ありがと……」


 歌音はハンカチを受け取ると、おでこの汗を拭いて、


「洗って返すから」


「いいよ、それくらい」


「させてってば、それくらい」


「……じゃあ、そうしてくれ」


「……ん」


 歌音は、口元に笑みをたたえた。


 ……まったく、こうして黙っていると、驚くほどの美少女ぶりだ。


 中学時代から、全校生徒の人気者になるわけだぜ。こんな美人が、よく俺と友達でいてくれるよな。


「あのさ」


 歌音が、うつむき加減で言った。


「さっきの話なんだけど」


「あ。……ああ」


 俺のこと、まだ好きかどうかって話か。


 風で流れていきそうな話題だったが、歌音は続けてくれるようだ。


「あたしね」


「ああ」


「まだ本当は、アンタのこと、す――」


 す……?


 続きが気になる。

 と、そのときだった。


 ビュオオオオオオゥ!

 と、猛烈な風が吹いてきて――ま、またかよ!? どれだけ風が強いんだ。


 俺は思わず目をつぶり、しかし一瞬ののち、両目を開く。すると。


 見事に、歌音のスカートがめくれて。

 白く、細い素足と。

 ピンク色の、下着が――


「見るな! 見ないでよ!」


「わ、悪い!」


「なんで!? どうして勝負パンツじゃないときにばかり、風が吹くのよ!!」


 そのとき俺は思い出した。




『きゃあああ!! 風、風!!』


『うわっ! か、歌音!? それ――』


『いやああ、見ないで見ないで! 今日は特に微妙な色の日なのにっ!!』




「思い出すなあぁぁぁ!!」


 歌音がまた涙目になった。

 さっきのは、中3のときの記憶だ。


「思い出すな思い出すな思い出すな!!」


 そう言われても、歌音が俺の前でスカートがめくれるのも、そのときに限って一軍の下着じゃないのも、これで何度目なんだよ。


 思い出すなと言われても、思い出してしまうだろ。総天然色でバッチリ記憶している。これまで経験した、通算22回の突風パンチラ、


「24回よ!」


「なんで覚えてるんだよ、そんなに!」


「アンタの前で恥ずかしいことになったことなら、全部覚えてるわよ! 忘れたいのに、これこそ本当に忘れたいのに!」


「そんなに覚えてくれてるのか。やっぱり歌音って俺のこと、まだす」


「好きなんかじゃないわよ!!

 勘違いしないでよね!!」


 歌音は、怒りのあまり咆哮し、そのまま「うわぁぁあああん!」とどこかに走り去っていってしまった。


 風は弱まった。

 俺はひとり、その場に残される。


「……好きじゃないのか。そうだよな、あれだけ忘れろ忘れろって言ってるんだもんな」


 そりゃ、すべては過去だよな。

 だけども、やっぱり過去にできないことって、あると思うんだけどな。


 いや、パンツの話じゃなくて。

 そう、決してパンツの記憶のことじゃなくて。


「教室に帰ろう……」


 なんだかドッと疲れた。

 俺はため息をつきながら、A組の教室へとゆっくり戻りだした。




(孝巳、孝巳、孝巳。忘れなさいよ、忘れなさいよ、忘れなさいよ。パンツのことは忘れなさいよ……!)


 背中に怨念が突き刺さる。

 午後の授業中、俺のすぐ右後ろにいる歌音から、猛烈なオーラとテレパシーが送られてきていたのを、俺は冷や汗と共に受信していた。


 右隣の栞が、不思議そうに俺を見つめていたのは、言うまでもない。

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