第8話 勝ちヒロイン、ここでまさかの主人公を未読スルー
「それで、結局みんな、織芽からラインの返事は来たのか?」
昼休みである。
午前中は移動教室が続いたので、なかなか俺たち4人は集合できなかったのだが、ここにきてようやく集まることができた。
場所は屋上である。
うちの学校は屋上でも生徒が出入り自由だ。
なので、昼休みは弁当を食べに来たり、遊びに来た生徒たちでいっぱいだ。
人間が外に落ちないように高い金網が設けられているし、ボール遊びは禁止だけどな。
さて、そんな状況で俺たちは屋上の片隅で、例の話題である。
織芽からの返事について、俺は尋ねたが、結果は、
「来てない~」
「栞に同じく」
「未読スルー」
「やっぱりか……」
こうなるだろうって、想像はできていた。
「未読スルーって、結構されるほうは傷つくのね。やられて初めて分かったわ」
「歌音……未読スルー、よくするのか?」
「中学のときはしょっちゅうだったわ。クラスの男子から、あんまりお願いされるから仕方なくラインを交換したら、まあウザいのなんの。
毎日毎晩、しょうもない話を日記みたいにあたしに送ってくるから、そのうち100%完璧スルーになっちゃった」
「マジか。俺がラインしたときはいつも2秒で反応がきてたのに」
「そりゃそうよ。あたし、あんたのこと、好きだし――
うっ!?
あ、いや――
当時!
当時ね!?
中学時代ね!?
そのころは好きだったから速攻で返事したの。そのころね。もう終わった話ね? ね!?」
「わ、分かった。分かったから、歌音。顔が近い近い!」
綺麗な顔を近付けられて、思わずドキドキしてしまう。
俺がツッコむと、歌音は慌てて距離を取って立ち上がり、風呂上がりみたいに手を腰に当ててから「ごくごくごく!」と、ゼロカロリーエプシを一気飲みし始めた。
「でも、わたしもちょっとショックだな。誰も反応が無いなんて~。おりちゃんのこと、友達だって思ってたのに……」
「いや、栞。俺はむしろちょっと希望が湧いたぜ。俺たち4人のうち、ひとりだけとか、ふたりだけが無視されたなら、そりゃヘコむけどよ。
みんな揃ってスルー。
それも未読スルーだ。
なら、織芽になにか起こったと考えるほうが自然だ」
「なにか……というと?」
瑠々子が無表情のまま尋ねてくる。
「例えば、スマホが壊れた、とかな。それで俺たちの連絡先データも吹っ飛んで、なにも反応ができなくなった、とか」
「……まあ、そうね。そっちのほうが有り得る話だわ」
復活した歌音が、ペットボトルのフタを閉めながら言った。
「そうなると、スマホに頼りすぎなのも怖いね。わたしも友達の電話番号とか暗記したりしてないから、もしスマホが壊れたらほとんどのひとと連絡取れないよ~」
「まして遠くに引っ越したひとなら、なおさらだよな。直に家に行くことも、できなくなるし」
俺たちは改めて、スマホに支配されてしまっている自分たちの生活を省みたものだが、
「とはいえ、そういうわけで俺は安心したわけだ。どうやら俺はフラれたわけじゃない。織芽になにかあったんだ。
こうなったら話は早い。やっぱり手紙を送って、俺の電話番号やラインのIDを相手に知らせれば、すぐにまた繋がれる――」
「あ、既読がついた」
「「「は!?」」」
黙ってスマホをいじっていた瑠々子が、ぽつりとつぶやいた言葉に、俺と栞と歌音は揃って仰天の声をあげる。
「つ、ついたって。織芽からか!?」
「そう。……見て」
そう言って、瑠々子が俺に突きつけたライン画面の液晶。
そこには、
『扇原瑠々子です。最近、
なにしてますか。福岡は楽しいですか。お返事ください』(既読)
「なん、だと……!?」
「あ、あたしのラインにも既読がついてる」
「わたしも、わたしも~!」
『歌音です。最近、孝巳と連絡とってないみたいだけれど、なにかあった?』(既読)
『鈴木栞です。たかくんといっしょにいます。幼馴染同士、相変わらずです(笑) そっちはどんな感じ? お返事ちょうだい!』(既読)
「ま、待て。待ってくれ。みんなに既読がついたってことは、じゃあ俺のも……!」
俺は素早く、自分のスマホをズボンのポケットから取り出し、ラインを起動させる。
なんと、そこには!
笑顔のスタンプ
泣き顔のスタンプ
テヘペロのスタンプ
既読……。
ついて、おらず……!
「嘘だぁああぁぁぁ!!」
「たかくん、落ち着いて。大丈夫、すぐつく。すぐつくよ、既読!」
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ……! うああああぁ……!」
「これまた意外な展開ね」
「既読の2文字がひとを狂わせる」
歌音と瑠々子が、俺のスマホを覗き込みながら冷静にコメントするが、俺はそれどころじゃなかった。
どうして、どうしてこんなことに。
織芽はこんなことをする子じゃなかった。
織芽、織芽!
織芽ぇ……!!
なお、それから15分待ってみたが、やっぱり俺のラインだけ完全に未読スルーが続いていた。
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