第4話 負けヒロインたち、消息不明の勝ちヒロインと連絡を取ろうとする
そんなわけで、図書室で『手紙の書き方』を借りた俺である。
その翌日。
放課後になって、自宅に帰り、彼女への手紙を書こうとしたわけだが、
「みんな、どうして俺の部屋にまで来るの?」
振り返りざまに言った。
栞、歌音、瑠々子。
3人がブレザー姿のまま、俺の部屋に揃っている。
「だって、どんな手紙を書くのか気になるし~……」
「手紙の内容次第で、……今後の対応も変わってくるじゃない?」
「手紙の書き方で分からないところがあったら、手助けしたい。これは純粋なる好意」
歌音……。
今後の対応って、なにを対応するんだよ。
「彼女に送る手紙だぜ? 栞たちに手伝ってもらうの、マジで気が引けるんだが」
「「「気にしないから、大丈夫!」」」
3人が綺麗にハモった。
仲がいいな、マジで。
うーん。
でもまあ、女の子に送る手紙だからな。
栞たちさえ気にしないなら、協力してもらったほうが、いい手紙が書けるのかも……。
「じゃあ、さっそく書いてみるか。ええと……
『拝啓 貴殿ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。光京市の脇谷孝巳でございます。風薫る季節となりましたが、近ごろはいかがお過ごしでしょうか』――」
「カタいカタいカタい! ボツ! 彼女に送る手紙じゃないわよ、それ。ボツボツ!」
歌音が怒鳴りあげてきた。
作家や漫画家のアイデアを全力却下する編集者みたいな勢いだ。
「いや、俺なりに『手紙の書き方』を参考にしてだな」
「こんな四角四面な手紙を送られたら百年の恋も冷めるわ。あの子が可哀想。できたら別れてほしいんだけど、これはあんまりだわ。言わずにいられない」
「なんだって? いまなんて言った?」
「なんでもないわよ。とにかくその手紙はNG! 彼女なんでしょ? もっと普通に、しゃべりかける感じにしなさいよ」
いっぺんにまくし立てた歌音は、言い終わってからすぐに「ああ、お節介しちゃった……なんでこんな手伝いを……」とかなんとか、ブツクサ言いながら頭を抱えこんでしまった。
「なんなんだ、いったい……」
「でもたかくん。かのちゃんの言う通りだと思うよ。拝啓とかはいらない。真面目過ぎる気がする~」
栞が笑顔でたしなめてきた。
「栞までそう言うなら。けれど、だったら、どういう手紙を書けばいいんだ?」
「ラインで話しているような感じで、書けばいいじゃない。アンタ、ふだん彼女とどういう風にやりとりしてたのよ?」
「どうって……こんな感じだ」
俺はスマホを取り出して操作すると、ラインの画面を栞たちに見せた。
『連絡くれる?』(23:22)
『元気? そっちは大雨が降ってるらしいけれど、気を付けてな!』(15:23)
『今日は駅ビルにある本屋でマンガ大人買いしちゃったぜ! ネットで話題になってた【刃の魔術師】ってやつ。めっちゃ面白い、いまハマってるんだ!』(18:20)
『おーい』(19:34)
『おいおいお』(19:51)
『返事くれー』(0:17)
『相手してくれないと泣いちゃうぞ? えーんえーん』(0:51)
笑顔のスタンプ(10:52)
泣き顔のスタンプ(10:54)
テヘペロのスタンプ(10:55)
「「っ……!!」」
栞と歌音は、露骨にスマホから目をそらした。
「おい、やめろ。見てはいけないものを見た、みたいな反応はよせ。俺だって、なんかヤバいなってのは自覚して――」
「ヤバくはない。孝巳くんなりの情熱を感じる。私はいまのライン、努力していると思う」
「瑠々子。優しいのは瑠々子だけだ。ありがとう……マジでありがとう! うっうっ……」
「たかくん、別にわたしも見てはいけないとか思わなかったよ! ち、ちょっと驚いただけで……」
栞が、慌てたように叫んだ。
「だって、あの彼女がたかくんの送ったラインをここまで完全に未読スルーだなんて思っていなかったし」
「よっぽど福岡での新生活が楽しいんでしょ。あたしだって、本当にウザいラインが来たときは結構スルーするわよ?」
「かのちゃん、そんなこと言わないで~」
「孝巳くんの彼女は、そういうことをする子ではなかった」
「む……。ま、まあ、確かにそうだけれど。……でもそれは、あたしたちが知ってる彼女でさあ、……何度も言ってるけれど、高校に入ったら性格が変わったってこともあるじゃないの」
栞と瑠々子にたしなめられ、トーンが少し下がった歌音。
だがそれでも、反論をしようとする。
そんなやりとりを交わしている栞たちを見つめながら、俺はふと思った。
「そもそもさ。栞たちは、彼女と連絡を取ったりしてないのか?」
「「「え?」」」
3人は、いっせいに俺のほうを向いた。
「みんな、俺の彼女とライン交換してるだろ。中学を卒業してから、2ヶ月半――この間、一度もメッセージ送り合ったりしてないのかなって」
「高校に入ってからすぐのころは、ちょっとやり取りしたけれど……ここ1ヶ月半くらいはしていない、かな~」
「あたしはゼロ。中学を出てからは、電話もラインもしてないわ。……いや、別にあの子が嫌いとかじゃないんだけれど……」
「……そもそも中学のころから、彼女とラインはあまりしなかった……。学校ではよく話をした、と思うけれど」
三者三様の反応が返ってきた。
なんだ、みんな、けっこう彼女と連絡取ってないんだな。
その理由は?
なんて尋ねようとしたが、やめた。
愚問だからだ。
栞たちからすれば、自分が失恋した理由が、俺の彼女だ。
そんな相手と、仲良く連絡しようだなんて普通は思わない。相手が遠方に行ってしまったなら、なおさらのことだ。
これは尋ねた俺が馬鹿だった。無神経すぎた。
だから俺はすぐに、
「そうか。まあ、卒業したらそんなもんだよな」
と言ってから、
「腹減ったな。なんかメシでも食いに行こうぜ」
なんて、話題を逸らそうとしたのだが、そのときであった。
「私たちからメッセージを送ってみるのは?」
瑠々子が、そんなことを言い出した。
「孝巳くんの彼女へ、ライン。……いまの私たちが送ったら、なにか返事が来るかもしれない」
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