第9話 いよいよ、阪神圏へ

 子午線をまたいで神戸市に入ると、勢いすれ違う電車も増える。

 すでに複々線化工事も始まっており、その新線路は、本線の左側、時には右側に、その領域を確保しつつある。


 窓の向こうは、瀬戸内海が広がる。

「いやあ、この海を見ると、やっと関西にやってきたって気持ちになりますな」

 有賀氏の弁に、清美も同様の思いを持っていることを明かす。

「そうですね。この景色を見るために、列車に乗っているようなものですから」


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 須磨を過ぎたあたりで、列車は海と少し離れる。

 次の鷹取も軽々通過。ここには国鉄工場がある(現在は貨物駅のみ:著者注)。

 鷹取から先は電車と列車が別々に行き交う複々線である(現在は西明石までが複々線となっている:作者注)。


 兵庫駅を通過する頃には、わずか3キロ弱の先、和田岬へと向かう山陽本線の支線が海側に見える。

 山陽本線と名乗ってはいるが、この路線にはこの時間帯、列車の設定はない。


 列車は早くも、兵庫県の県庁所在地駅である神戸に到着。

 ここで幾分降車客が出るが、乗車してくる客はそういない。

 神戸を出て数分もすれば、電車駅の元町を通過し、神戸市内の中心地でもある三ノ宮に定刻で到着した。


「ほな、清美さん、お父様によろしくお伝えください」

「はい。それでは有賀社長、どうぞお気をつけて」


 ここで有賀氏は下車。

 他にも下車客は多数。わざわざ一等車に乗ってくる人はいない。

 二等車には、いくらか乗車客もいる模様。当時新快速電車はなかったから、準急列車は、阪神間を早く快適に移動するには存外便利であった。


 ここからはもう、複々線。この列車は長距離列車の走る列車線を走る。芦屋、西ノ宮(現在は「西宮」)といった住宅地の中駅を通過し、さらに尼崎を通過。

 尼崎駅では、福知山線の列車に乗るべく、あるいは大阪方面、神戸方面への電車を待つべく、何人もの待ち客がホームにいる。しかしこの列車は、構わず通過。


 大きな川を渡り、やがて列車は大阪駅に定刻で到着。

 時刻は11時30分を幾分回ったところ。まだ、昼食時の手前くらいの時間帯。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


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