第8話 明石を過ぎ、そして瀬戸の海
この頃はまだ東加古川駅はなく、次は土山。別府鉄道の乗換駅。
V海側の別府鉄道のホームには、小型の機関車が何両化の貨車と二軸の小さな客車をけん引して海辺の別府港からやってくる。
貨車はここで国鉄の貨物列車に連結されてさらに東西へ移動していくが、客車は当然、国鉄線内に入ってくることはない。
列車は、土山に続き魚住、大久保、西明石と通過。
戦前は蒸気機関車や客車の操車場で超特急「燕」の車両基地でもあった明石操車場は、電化の影響もあって現在は電車区となっている。
その端をすいすいと抜けると、次の停車駅は明石。
ここでもまた、多少の乗降がある。
この駅が高架化されたのはその4年後。当時はまだ、地上に駅舎があった。
明石を過ぎると、朝霧、舞子、垂水、塩屋と、神戸近郊の電車駅を次々と通過。
朝霧を通過して間もなく、列車は明石市から神戸市に入る。
さかのぼること数年前、明石の市街地の周囲を次々と合併してきた神戸市は、ついに明石市本体を合併しようと、明石の合併推進派の市長をして住民投票を仕掛けた。
しかし、土壇場でダブルスコア以上の差をつけられて否決され、明石市は神戸市との合併は「阻止」され、市長が辞職する騒動が起きていた。
その後明石市と神戸市の合併は行われないまま今日に至るが、その後も幾度か、合併の話が持ち上がりかけたことはあるという。
その神戸市との境の近くを通る東経135度の子午線上には、この年6月10日に完成した明石市天文台が建つ。
この建物内には、東ドイツのカール・ツァイス・イエナ社によって製造された最新鋭のプラネタリウムが設置されている(2023年現在も現役。著者注)。
子午線をまたいで神戸市に入ると、勢いすれ違う電車も増える。
すでに複々線化工事も始まっており、その新線路は本線の左側、時には右側に、その領域を確保しつつある。
窓の向こうは、瀬戸内海が広がる。
「いやあ、この海を見ると、やっと関西にやってきたって気持ちになりますな」
有賀氏の弁に、清美も同様の思いを持っていることを明かす。
「そうですね。この景色を見るために、列車に乗っているようなものですから」
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