第7話 珈琲とジュースの糖分。そして、列車は加古川へ。

「ホンマやったら、こういうものを入れずに飲んだ方がいいのか知りませんが、頭が疲れておりましたら、なぜか無性に欲しくなるの。わかっちゃいるけど、やめられません」

「確かに先程も、やたら砂糖やミルクを勢いよく入れられているのを拝見しまして、何て言いましょうか、お体にあまりよろしくないのではと、ついつい申し上げたくもなりましたけど、言わなくてよかったかな、と」


 ジュースを瓶の口から飲みながら、清美が答える。甘さという点で言えば、こちらも負けてはいない。

 この手の清涼飲料には、多くの角砂糖と同じくらいの糖分が入っている。隣の男性客の珈琲の比ではないほどの糖分が、実は、形を変えて入っているのだ。


「いえいえ、確かに、身体には、あまりよろしくないでしょう。職業柄日本茶ばかり扱っておりますと、どうしてもこういうものが欲しくなるのです。何でしょう、仕事から離れられたような気がしましてね。そういえば岡山社長は、日本茶もお好きですよね」

「ええ、父は職業柄珈琲豆や紅茶葉を扱っておりますけど、日本茶も好んでおります。そういえば去年岡山に参りました折に、珈琲を飲みながらですけど、うちのマスターが日本茶をお出しするようにと申しまして、私、お茶を入れて父に出しました。そのとき、同じようなことを、父は申しておりましたよ。父の弁によれば、珈琲もいいが、日本茶を飲んだら、仕事から解放されたような気になるようでして」

「あ、そのお茶の葉はうちの(商品)ではないでしょう。御存知かどうか、窓ガラスさんのお茶は下山さんのところで買われているようですからね」

「ええ、経理もしておりましたから、そのあたりはよく存じております」


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 最新鋭の準急電車は、加古川に停車。ここは、加古川線と高砂線の乗換口。

 加古川線の方面は、三木や北条、さらには西脇といったところへ枝分かれしていくのだが、三木あたりともなると、神戸電鉄で神戸に直接出ていく客が多く、わざわざ国鉄で大回りして加古川経由で神戸に出向く人はそれほどいない。


 多少の乗降を終え、列車は次の停車駅である明石に向け出発した。

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