第6話 そして、珈琲の香り再び
「はい。下川書房さんと、窓ガラスさんでお仕事いただいておりました。ところで有賀さんは、なぜまた、堀田先生を御存知で?」
「米屋の山藤さんから紹介されてO大学のお仕事をいただけるようになりましてね、そのとき窓口になってくださったのが堀田先生です。ひょっとしてあなた、大阪にある岡山洋行の岡山和彦社長の娘さんじゃないですか?」
なぜまた、岡山で日本茶葉の卸売をしている人が、父を知っているのだろうか?
「そうです。岡山和彦は、私の父です。父とは、お知合いなのですか?」
「はい。お父様には、神戸や大阪の取引先を御紹介いただきましたもので」
ここで両者とも名刺交換。
清美の名刺は、先日父親から送られてきたものである。
株式会社岡山洋行 社長室付 岡山清美
名刺には、そのように書かれている。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
電車は姫路を出て市川を渡り、御着、曽根、宝殿の各駅を軽々通過していく。
銀色のひげを蓄えた電気機関車の牽引する客車列車に、度々出会う。
マスコミ関係者はまだ乗車していて、車内を前後へとあちこち移動しながらインタビューを重ねている。
列車の揺れは、岡山出発時に比べ明らかに減っている。
再び、車内販売の女性が回ってきた。
彼女は瓶入りジュースを買った。隣の男性は、ワゴン上に乗っている珈琲を再び注文。しかも、ミルクと砂糖もしっかりつけて。
「あれ、先程も頼まれていましたよね」
「どうもねぇ、これを飲まないとシャキッとしませんで」
そう言いながら、有賀氏は砂糖とミルクをドドっと入れて一気にかき混ぜる。
先程以上に、珈琲の香りとともにミルクの匂いと砂糖の甘味さえもが嗅覚を通して伝わってくる。
「ホンマやったら、こういうものを入れずに飲んだ方がいいのか知りませんが、頭が疲れておりましたら、なぜか無性に欲しくなるの。わかっちゃいるけど、やめられません」
「確かに先程も、やたら砂糖やミルクを勢いよく入れられているのを拝見しまして、何て言いましょうか、お体にあまりよろしくないのではと、ついつい申し上げたくもなりましたけど、言わなくてよかったかな、と」
ジュースを瓶の口から飲みながら、清美が答える。
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