第4話 車内検札、車内販売、そして報道関係者の取材
程なく車掌が回ってきた。
隣の男性客とともに、彼女は検札を済ませた。
隣の男性客は三ノ宮までの模様。背もたれに装備されているテーブルを広げ、何やら書類に目を通している。そして時々、鉛筆を取出しては何やら書込んでいく。
車内販売の女性もしばしば回ってくる。
東岡山を過ぎたあたりで、この10両編成の4号車にあたる一等車にも、そのワゴンがやってきた。ビールなどの飲料、弁当、さらには岡山名物のきび団子や鶴の玉子といった土産物を売っている。
隣の男性客は、珈琲を注文した。
ほのかな苦みを伴う独特の香りが、一気に投入したミルクと砂糖の香りを交えて横の席から伝わってくる。
窓側に座る清美は、すでに朝食も済ませているし特にのどが渇いたわけでもないので、何かを買ったりはしない。
周囲には煙草を吸う客もいなくはないが、隣の男性客は非喫煙者のようで、身体からもそのような匂いは伝わってこない。
この電車準急は途中、瀬戸、和気、上郡、そして相生と、いささかこまめに小駅に停まっていく。
大阪までの日帰り客に考慮した停車駅の設定が、上りの一番と下りの最終列車にされているのである。
同じ「鷲羽」の他の2本は、姫路までの停車駅は幾分少ない。
どの駅も岡山程の乗降客はないが、いくらかの客の入替りは発生している。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
この列車は設定初日の一番列車。報道関係者が何人かいる。
「お客さん、ちょっとよろしいですか?」
彼女は、背広姿のアナウンサーに取材を受ける。
「この電車準急、乗り心地、いかがですか?」
「ものすごく快適ですね。それに、煙も窓から入ってきませんし」
「なぜ、この列車を選ばれました?」
「知合いの国鉄の方が確保してくださいました」
「どちらからですか?」
「岡山です。今日は岡山から、大阪の父が経営する会社に就職しますので。父は以前から大阪に出て会社を興しておりまして、その仕事をようやく手伝えるようになりました」
「そうですか。あなたにとっては、「出世電車」ですね」
「そう言われましても、何だか、実感わきませんけど」
そう答えてはみたものの、言われると確かに、悪い気はしない。
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