第3話 どんどん加速していく最新鋭電車
窓側の席に座った女性の隣に、ほぼ同世代の男性客がやってきた。
「横の席、失礼します」
彼はそう言って、必要なものだけを取出して荷物を網棚に上げた。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
電車はタイフォンと呼ばれる汽笛を高らかに鳴らし、岡山駅を出発。
電車だけあって客車列車のような連結器の衝動もほぼ感じさせず、静かにしかし勢い良く速度を上げていく。
第一北方踏切、さらには第三北方踏切と、駅前の踏切をこの新鋭の電車は少しずつスピードを上げつつ通過していく。
通路向うの窓の先は、男子校の吉備商業高校である。
ほどなく旭川鉄橋を超える。当時はまだ新幹線も新鶴見橋も開通していなかった。
彼女の窓の向こうにすぐ見えるのは、後楽園にわたる鶴見橋。その橋を渡った先には後楽園と、その横には両備バス西大寺鉄道の始発・後楽園駅がある。
ここから西大寺市の中心部を、この鉄道は結んでいる。2月の会陽のときは最大の混雑を極めるが、それ以外の時期はさほどでもない。
極々のんびりと、気動車が1両で走っている。中には、自転車を気動車の前のかご部分に乗せている客もいるという。
だがこちらは、天下の国鉄の最新鋭急行電車。
すいすいと速度を上げて数分、隣駅の東岡山を通過する。こちらも、山陽本線の代替ルートとして期待されている国鉄赤穂線の工事が進んでいる。
駅前には、西大寺鉄道財田駅。
ここで西大寺鉄道の列車はすれ違うこともある。
東岡山を少し過ぎると、辺りはもう完全な田園地帯。
かつて山陽鉄道は、赤穂と片上、さらには西大寺を結ぶルートでの敷設も計画されていたが、当時海運全盛期、汽車によって町が寂れるのはという声も多く、結果的には東岡山から相生までの間は和気や上郡といった海から離れた町を通るルートで敷設された次第。
山間部には幾分入り込むもののさほど山中というわけでもなく、かといって海沿いというわけでもないこのルート、東海道・山陽筋のメインルートとして多くの列車が行交っている。
そんな路線であるから、当然複線。
向かい側の線路からは、多くの列車がやってきては去っていく。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます