第2話 準急電車「鷲羽」の一等車・サロ153の車内へ!
この準急「鷲羽1号」には、岡山から大阪の父の会社へと就職が決まった20歳になったばかりの若い女性が乗車することになった。
その女性の名は、岡山清美。
去る1959(昭和34)年3月に定時制高校を卒業し、それから約1年半、住込みで働いていた書店と、さらに17歳のときから手伝っていた喫茶店の2店舗で経理事務などの修行をさらに積み、この10月からいよいよ、父が経営する大阪市内の珈琲豆や紅茶葉を取扱う会社に就職することとなったのである。
彼女に関しては、誰一人、見送りに来てはいない。
しかしその前夜、彼女が勤めていた喫茶「窓ガラス」では、盛大に送別会が開かれている。このとき、彼女には翌日のこの列車の切符が渡されていた。その切符は、彼女が住込みで勤めていた下川書房に本をよく買いに来る国鉄の関係者を通して入手できたもの。
今回は、何と1等車が確保されていた。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
宇野駅からやってきたこの最新型電車、すでに東海道筋では急行にまで利用されているものの、山陽筋へは、この改正でようやくやってきた。
四国からの客を乗せた連絡船から乗り継いだ客に加え、岡山からのビジネス客などが、わずか3分停車のうちに次々と車内に乗込んでいく。
この時期はそれほど混むわけでもないが、一番列車というだけあって、ほぼ満席状態である。彼女はそんな中、一等車の窓側に席を得られたのである。
この車両はサロ153型。
湘南電車80系のサロ85はゆったりした向かい合わせの席だが、こちらの座席は、二等車の向かい合わせではなく、進行方向に向かって並んでいるもの。
特別急行列車の二等車とほぼ同じ座席である。
しかも、目の前の席の後ろ側、つまりこの席の目の前には、自分用のテーブルが備え付けられている。ちょっと珈琲を飲むくらいはもとより、弁当を食べるにも書類整理にも、もってこいの設備である。向かい合わせの座席なら窓側にある灰皿も、二つ並んだテーブルの下、真ん中あたりの程よい位置に設置されている。
もっとも彼女は喫煙者ではないから、その設備には何の用事もないのだが。
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