運命の考え
店から離れ、その後も通りを歩き回り気付けば最初に待ち合わせた。公園前まで帰っていた。そりゃあ、通りが一周するように設計されているから帰ってきてもなんらおかしくはない。
公園のベンチに座り休憩を取る。空には既に一番星が出ており、まだ夕暮れの明るさは残っているが、秒読みで通りの明かりに切り替わる。
「ううー楽しかった。こんなに異性と歩いたのは久しぶりだー」
「自分の他にもいるのか?」
「んん、異性って言っても弟。……もう少し伸ばしておちょくれば良かった」
「心の声が漏れてるぞ」
カナは笑て誤魔化した。彼女が笑うたびに未来の姿が重なって見える。本当に一生居てくれる人だとますます確認させられる。
「次はどこ行く?」今度は自分が訊いた。
「ええーまだどこか行こうって考えているの?さすがに疲れたよ」
「そのつもりで言ったわけじゃ何んだが、確かに疲れた」
「そうだよ。いまお互い疲れてバカになっているからね」
「同意だ」
淡々と言葉を並べ、思い思いに口にする。きっとこの光景を見て、二人が今日初めてデートをしたカップルだとは誰も思わないだろう。現に当事者がそう思ってないのだから。
「次のデートは自転車でどこか行く?」
「乗るの高校ぶりだから乗れるかは心配だが、行こうか」
「そうなると、点検も必要になるな~めんどくさ」
「それ、本来自分が言う言葉なんだが―—」
「知ってる―—ずっと前から識っている。だから今日、こうして一緒に子供たちの自転車乗る練習に付き合ってるんでしょうが!」
「今は遊んでいるがな」
自分は定期的に運命とは何かと考えている。だがやっぱり、結論が出るどころか候補が雨後の筍のごとく乱立する一方で答えなんて出てない。何の因果か知らないが、今日もまた誰かの運命に寄り添い、巻き込まれている。一生これの繰り返しだともう何年も前から確立しているはずなのにまた同じ結論にありつく。
まったく、いつまで行ってもふざけた人生だと思える。
「祭りのおっさんいっくぞ!それ!」
「ジュハ!いい球だ」
「花びらと水を入れたら、色水作れるんだよ」
「ホウホウ、師匠、それは画期的な」
いま目の前で父親じゃない男が自分の息子娘と遊んでいる。
「本当、腐れ縁というのはどこまでも付いてくるな」とため息をついた。
「本当そうね」変わらずカナは笑って見せる。
「師匠のおじさん、休んだなら自転車の続きしようよ」と、幸作のガキがせがむ。
「……わかった。続きをしよう。本来自分の役割じゃないだけどな」
今日も変わらず巻き込まれ。今日も相変わらず、遊び遊ばれる毎日、これを地獄と言ってなんというのか。つくづく笑えてくる。
あのデートの日から五年も経ち、三人もの子供に恵まれ、毎日の振り回されて、挙句に腐れ縁の連中どもにも振り回される。
この五年間の間にも、苦難が幾度なく襲ってきた。ある時は、宗教団体との抗争で国を敵に回したり、本家で別の名家との因縁で戦争や仲裁に入ったりと、ロクでもないイベントよくブチ込まれたものだ。こんなことは今世だけにして欲しい。
だけど、後悔はない。と言ったら嘘になってしまう。世間からしたら、すべてを手に入れた理想の人生だと思うかもしれない。だが、これだけは言わせてくれ、『どこに行こうが好きなことをしようが、どんな仕事に就こうが地獄は地獄で変わりない。ただ、その地獄の中でどう立ち振る舞うか』これだけの違いだ。幸せの成分は基本そこから生成される。
昔といっても当主だったころ、支持者からとある質問をされたことがある。
『もし、人生がやり直せるならその能力を使いますか?」と、これは銀堂家の当主に成ったら必ず訊かれることだ。だから、テンプレのように答えた。
『別に返りたい過去なんてないよ。確かに後悔はあるが、そうまでしてどうにかしたいと思う未練はない』と、正気で淡々と語った。
聞いた当人は、憑き物が取れたように清々しい顔をしていたが、自分にはその顔がキモイ以外のコメントはが無かった。
そろそろ、運命とは何かの話に区切りを付けよう。運命というものは先も見えない不可知な存在であり、それは一種の流れを持つ呪いのようなもので抗えな存在。そして、他者と関わると度に変化を伴う存在でもある。いや、もしかしたら、かつて自分が歩いた運命の残滓なのかもしれない。
カナリアな彼女(初期完成版) 冬夜ミア(ふるやミアさん) @396neia
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