(11)私極道の妻だよ?
それじゃあ、3人で一色琴乃を探しに行こう。そう翠夏が提案してから早5分。
ひっきりなしに浮ついた言葉を投げかけてくる松井を完全無視して、翠夏と2人、村の中心に向かって歩く。
「なんかさ、ドアが開かなくなってて」
「どういうこと?」
「たぶん、部屋に閉じ込めようとしてたんだと思う」
翠夏が言うには、夕食が2人分運ばれてきた後、使用人がどこかそわそわしていたのだという。しきりに私の行方を問うてきたそうだ。はぐらかしたはいいものの、どこか怪しい雰囲気を感じ取った翠夏は、外に逃げようとした。
「そしたら、部屋のドアも窓も中から開かなくて」
「……では、なぜ今こちらに?」
「あのさ、私極道の妻だよ?」
「蹴破ったんですか」
「いや椅子を投げて、こう」
それ以上は頭が痛くなりそうなので追求しなかった。私がお腹空いてたら困るだろう、とお櫃のご飯でおにぎりを作り、屋敷を抜け出してきたらしい。正門も固く閉ざされていたが、そこは翠夏。庭の木から塀に飛び移り、無事脱出を果たしたと誇らしげに語った。
「あの程度で私を監禁しようなんて、笑止千万。もっときっつい閉じ込められ方だってしたことあるんだから」
「笑えないですよ」
「笑ってよ、もうっ」
「ダークな過去を抱えた翠夏ちゃんもまた魅力的だね!」
松井が何か喋っている。
「でも、どうして翠夏を閉じ込めようなんて」
「たぶん私だけじゃなくて、右ちゃんも家から出さないつもりだったんじゃないかな。ただ、思いのほか右ちゃんの帰りが遅かったから、焦って私だけ」
それこそどうして、という話になる。この時間、私たちを屋敷にとどめておきたい理由があったということだ。私たちに、いてほしい理由。外で見てほしくないもの。隠しておきたいこと。
「煙焚きじゃないか?」松井が口を挟んできた。「今日が祭りの最終日だから、煙焚きの儀式を始めているはずだ」
翠夏と顔を見合わす。祭りを見に来た私たちを、祭りのメイン行事から遠ざけようと?
「その煙焚きは、どちらで?」
「村の真ん中。役所前の広場でって話だ」
「とにかく、行ってみましょう」
どおりで村人がいないわけである。みんな、儀式に集まっているのだ。
通りを抜けて、役場の方へと走る。妙な胸騒ぎがした。
この村に来てから、ずっとそうだ。嫌な気配がずっとまとわりついて離れない。体に蜘蛛の巣が絡んだように、幾度払っても不快感が拭えない。
先生は、無事だろうか。
呼吸が荒くなる。風が、酒気を帯びている気がした。喧噪が近づいてくる。役場を挟んで広場の反対側に、私たちはいたらしい。向こう側は明るい。この先に、何があるかーー。
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