最初に言った言葉覚えてる?

 何分泣いていたか分からない。がむしゃらに抱き付き、泣きつかれたイーブルは猫のように丸くなり眠りにつく。その隣でセクトは優しく頭を撫で歪む視界の中、必死に寝ないよう小声で子守唄を歌っていた。だが――無性に眠くなり意識が飛ぶ。


『殺すんじゃなかったのか』


 大人びた低い声にゆっくり目を覚ます。


「そうだ。殺して作品作るんだっけ」


 横目でイーブルを見てフッと鼻で笑うと絞め殺そうと首に手を伸ばす。


「教授?」


「ん、残念。起きちゃったか」


 ゆっくり手を離し何もなかったようにヘラヘラ笑う。イーブルは手で目を擦り、セクトは気まずさに視線を逸らすと刺殺されたリキが視界に入り黙り込む。


「あれ、マスター。ライブの――」


「あの人? ゼロ距離で頭撃ち抜いて殺ったよ。物凄くムカついたから経緯聞くつもりだったけど殺されそうだったし。なんかごめんね、結局、こと分からずに終わっちゃったね」


 ハハッとセクトは笑うとイーブルは「終わってない」とセクトの正面に立つ。


「待って、仲間でしょ」


「でも、教授言ってましたよね。俺のこと殺すって。俺はもう戻れないって分かってます。だから、死ねるなら教授。セクトの作品になって死にたい、です」


 その言葉にセクトは「やれやれ、変なことには記憶がいいね。最初に言った言葉に覚えてたんだ。嬉しいよ」とニコリと笑う。


「でもねえ、あいにく腕が使い物になら無いからさ」


「嘘ですよね。さっき絞め殺そうとしてませんでした?」


「懐かしいね、その敬語。出会った頃を思い出すよ」


「誤魔化さないで下さい」


「誤魔化してないよ。いつでも本気さ」


 間が空き、セクトは大きく溜め息をつく。


「いいの? 殺して」


「はい……俺には居場所も何もないので」


「そう」


「それに、セクト……教授は何か企んでそうな顔してる。このゲームを終わらせるために――上手くは言えないんですが」


「よく分かったね。通知表に心理学Aにしとくよ。なんて嘘だけど……」


 セクトはイーブルに顔を向け、立て膝になると口を耳に近づけ言う。


「このゲームを完全に終わらせるには誰かが悪にならないといけない。この現状で終わったといえ、他の誰かが似たことを始めたらキリがないでしょ。だから――俺はそれを止めたい。失った仲間の元に逝く前に。そう誰か・・に言われた気がするから」


 ゆっくり立ち上がり、セクトはイーブルの腕を引く。壁に押し付け、首に手をかけ悲しげな顔で笑う。


「自分から死にたいですってズルいよ。本当は共倒れしようかと思ってたのに……残念だな」


 徐々に力を入れ、苦しみ出すイーブルを真顔で見つめる。だが、途中から解放される嬉しさから子供のような笑顔で一言。


「ありがとう、教授。先、逝きます」


 その言葉を最後にセクトは一気に力を強め、藻掻き苦しむかと思ったか最後まで笑顔で――イーブルは静かに息を引き取った。

 手を離すと乾いた音を立てる。一人残され、目頭が熱くなるも頬を叩き、太ももを叩き泣くな、と自分を叱る。


「はぁ……イーブルに言われたらやるしかないよね。ねぇ、皆――」

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