洗脳と感化1

 大きくリキはよろめくも根性と気合いで踏ん張る。左胸に刺さっているが左肩より心臓は大丈夫らしい。無理やり引き抜き、痛みに膝をつきながらもセクトの視線を感じるのか「心配ねーよ」と冷や汗をかきながら言う。


「無理しないで、リキ」


「バカ言え、お前が死んだら元も子もないだろ。それに俺は――人殺せねーし」


 傷を押さえながらリキの背後で傘に扮した対物ライフルと他人の武器を使った戦う人なのか上八木と右京のハンドガン二丁とぶつかり合う。


「自分の心配より他人の心配か欠陥品」


「他人の武器使って何いってんの? このクズ」


 セクトはマスターを押し返しゼロ距離で構え引き金を引く。

 それをクロスボウを構えたまま、イーブルは涙を流し見つめていた。力が緩みクロスボウが手から離れると「やるじゃーん、イーブル」とライブが肩を組んでくる。


「さすが俺の俺。やるときはやるんだよなぁ」


 ハハッとライブは笑うと一枚の写真をイーブルに見せた。それは、右京がチェイスの爆発に巻き込まれた際に撮られた写真。

 爆破により上半身下半身、四肢が千切れ、炎に焼かれ死ぬ。肉片になる寸前の写真だった。爆発がエフェクトのように嗤うチェイスを包み込む、その姿は無加工ならではのリアルさと迫力がある。


「右京のスマホにあってさ。気に入ったから印刷したんだ。これ見てどう思う? こんなの撮りたいと思わない?」


 ライブの声が頭に響く。


 ――撮りたい――けど今は違う。


 いつもは他人を殺してきた。でも今は顔見知りまで殺そうと手が伸びてる。自分の意思じゃない。“ライブ”という人の意思で動いている自分が嫌で仕方がない。


「ライブ、ごめん」


「ん?」


 イーブルの言葉に首を傾げ「何言ってんだよ」と頬を頬で擦られるも嬉しささえなかった。苦しい――それがイーブルの本音。


「殺したくない」


「ん?」


「あの二人を殺したくない……」


 不機嫌にさせる言葉。そう分かってイーブルは続けて口にする。


「俺の殺しとライブの殺し違う。俺は誰かに認めて欲しくてやってた。寂しかった……だから、嬉しかった。けど、ライブの殺しはただ自分を満たすだけで嬉しくない、愉しくない!! もう殺りたくない」


 腕を振りほどき、パーカーのポケットからライブから貰ったカランビットナイフを取り出す。


「すみません、もう答えられない。もう分からない。自分がどうすればいいのか」


 地を強く踏みつけ駆け出し、ライブに斬りかかると同じくカランビットナイフが受け止める。


「あっそう。分かった。じゃあ、死ね。それで許してやる。この出来損ない・・・・・。母親似そっくりだよ。ホント」


 突き飛ばされ、体勢を立て直そうとバク転するや前方にライブ。立て直す前に腹を蹴られ、腕を掴まれ、背負い投げ。それでもイーブルは怖くも立ち向かおうと掴まれてない左手を地につき受け身。軽くて首を捻るもすぐに駆け出し斬り込む。刃と刃がぶつかる。


「泣きごと言わず従ってればいいのに。そんなに言うこと聞けないか? そんなに偽物の親が好きだったか? 俺は嫌いだ。あんなの。此方の方が好きだね」


 押され、数歩後ろに下がるや飛び蹴りを腕をクロスさせ受け止める。


「血の繋がってない子だからって毛嫌いされる方がストレスだ。そんなこと言うなら養子を迎えるなって話だよ。あー苛つく。糞が」


「だから殺したの? 俺を受け入れてくれた親もあの孤児院の人達も」


 イーブルの言葉にライブさニヤリと嗤う。


「なんだ思い出したのか。あーあー忘れてれば良かったのに。これじゃあ、調教のし直しだな」


「嫌だ、絶対。変なことされるなら死んだ方がいい」


 突拍子もない言葉にライブはセクトとリキを一瞬見て苛立ちを隠すように言う。


「何を吹き込まれた? いや、何を言われた」


「なにも。……俺も出来るならあの人達みたいなヒトになりたい」


 その言葉にライブはギリッと歯を鳴らす。


「テメェ、自分が何言ってんのか分かったってんのか」


 今までに無い怒りの声に恐怖に呑まれるも必死に耐える。


「分かってる。……だから、ライブこそ死んで」

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