人形4

 その声にリキが「殺すか」といつの間にかガンケースを背負っており、ガラスのない窓にガンケースを投げ込み、セクトと顔を合わせ二人が飛び降りる。


「おいで、イーブル。一緒に遊ぼう」


 着地するやセクトは大きく手を広げイーブルを誘う。それに乗るように窓のサッシに足を掛け、飛び出すとお姫様抱っこで受け止められ「はい、じゃあ。此処に居ない皆の武器と一緒に戦おう」と下ろされるやガンケースの中には様々な武器。

 傘に扮した刀、杖に扮したショットガン、折り畳み傘に扮したクロスボウ、スナイパーライフル:マクミラン、美しき男性と女性のパペット、大道芸の道具等々。


「オラよ!!」


 迫り来る人形を拳で殴り、袖からトンファーを取り出し追撃するよう殴るリキ。その動きに隙がなくどんどんコンボを繋げていく。右、左、蹴り、回し蹴り――テンポの良さにステップを踏むような感覚にイーブルは真似してフットワークを踏み、それを見たセクトが援護するようにリキが対処できない視界の範囲外から狙ってくる人形に向け、AK-47とM4を撃ち込む。その武器は今は使ってないが亡き兄二人の元愛銃。

 射撃音が更にリズムに磨きが入り、今度は足でリズムを取る。


「俺も行きます」


 打撃音、射撃音を音楽にイーブルは駆け出し人形の波に突っ込む。腕を捕まれ、引っ掛かれ傷が付こうかお構い無し。足を肩幅開き、円を描くよう勢いよく半月輪を振り鎌と変形。一瞬で何人もの首を跳ねると剥がれ、ただの棒となる。それに「受け取って」とセクトから渡されたのは――杖に扮したショットガン:ウィンチェスター。ウルの武器だ。

 構え射つや銃口を下に向け、持ち手に付けられたループレバー。それを掴み、軽く蹴りその勢いでクルッと銃を回す。『スピンコック』というガンアクション。一発で複数弾散るように撃ち抜く。離れていれば広範囲。ゼロ距離だとかなりの破壊力。近距離~中間と魅力のある銃。


「このっ」


 一気に二、三人の頭を撃ち抜き、血が噴水のように噴き出す。それはまるでブーケのように美しく見入っていると「はいはい、次!!」と刀を手にしたセクトが斬り掛かり武器を渡される。クロスボウ。ジギルの武器。

 危なげに受け取り、アハハハッと愉しげに斬り掛かるセクトを援護すると視界の外からの人形の攻撃に反応できず、尻餅付くとリキが間に割り込む。「こっち来いよ」とウォレットチェーンを鞭のように振るい首に巻き付けるや絞め殺す。


「あ、ありがとうございます」


「ん。背中任せるわ」


「えっ、あ、はい」


 駆け出すリキ、斬りかかるセクト。イーブルはそんな二人を見ながら意のままに戦う姿に笑みが溢れる。ライブとは違う自由に殺り合う感覚はイーブルにとって新鮮だった。


 “映え関係なしの自分を守るための殺し”


 本当の殺しを知った様な気がし「これが殺し」と一人呟くやクロスボウ構える。



 そんな彼らを上から伺う影。



『やだなぁ、イーブル。俺を裏切るんだ』


 何かを噛み砕く音が無意識に填めていた骨伝導イヤホンから聞こえる。


『畳み掛けるか、ライブ』


『そうだね。じゃあ、その死体をさ。此処から投げ入れて――愉しいことしようか。ねぇ、父さん・・・


 人形が散らかった作業場に邪悪な笑みを浮かべ三人の前に着地するライブ。左手には千切れた腕が掴んだ血に汚れた銀のハンドガン。


「やぁやぁ、楽しんでる? アハハッ疲れてそうだけど?」


 その言葉に上から血だらけで息を失った上八木が投げ込まれ、ダラリと力ないボロボロの姿に「上八木!!」とセクトが駆け寄るとマスターが着地。


「これはこれは、セクト。欠陥品が此処にいるとは処分されに来たか。噂をすればリキとやらも欠陥品らしいな。人を殺せぬ殺し屋などゴミ。殺されることをありがたく思え」


 挑発的なマスターの言葉に「今ので確信した。イーブル、やっぱり俺の推測当たってるかも」とセクト投げやりに言い「悪いけどお初だからアンタのこと知らないね」とプライドに傷を付ける。それにマスターは「だろうな」と上八木の死体に目を向けニヤリと満足げに嗤うや言う。


「ライブ、二人は引き受ける」


「やった。じゃあ、俺は――イーブルね。イーブル、俺と遊ぼ。大丈夫、怖くないよ。少し痛いだけだから。え、何。顔に出てるってやだなぁ、もう」


 ライブはイーブルにゆっくり近付き、独り言を何度も呟いては付けていた仮面を外す。殺気に満ちた目に笑み。その邪悪な表情にイーブルは動けずにいた。見たこともない怒りを露にした表情にクロスボウを構えるも優しく手を乗せられ、強引に下に向けられる。


「実はとても怒ってる。殺したいほどじゃないよ。でも、なんだろう。腹立つんだよね。誰かさんと仲良く笑ってるのを見るとさ!!」


 優しい口調から怒号に変わり、イーブルは恐怖に支配されクロスボウを落とすと「イーブル!!」とセクトが声を出すも銃声が邪魔をする。セクトとリキが気になるが迫るライブが怖い。何も出来ず気づけば目の前。


「俺の言うこと聞こっか。そしたら、許してあげる。あのどっちかを殺せ。(笑顔で)それが出来ないなら死んで」



 ――死ね――



 その言葉がイーブルの頭に嫌なほど響く。落ちたクロスボウを震えた手が拾い上げ、セクトに照準を合わせ引く。すると、庇うようにリキが割り込み、彼の左胸を貫いた。

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