人形3

 本名で呼ばれ、驚き固まるイーブルの元に飛び掛かる人形。だが、真っ黒な鎌が人形を意図も簡単に斬り落とす。頭から右肩にかけ一瞬――と切れ味の良さに一瞬戸惑うも切斬った際は出血せず、床に倒れた瞬間に血黙りを作る“それ”に目を奪われる。


「綺麗……自分が映ってる」


 照明に照らされ宝石のように輝くドス黒い血。それを見て目を輝かせるも愉しそうではなかった。


「シキ、前!!」


「……ッ」


 セクトの声に体が動く。体を左右に揺らしながら駆けてくる人形を鎌を半月輪に切り替え斬る。同時にセクトが壁に背を預け、重く力強い銃声を発てながら頭を射ち抜く。


「ナイス、シキ」


 リロードしながらセクトが近寄り、二回落ち着かせるようにイーブルの肩を叩く。そのやり方はライブとは違うが軽くコントロールされているようにも感じた。ライブの一緒にいる時の殺欲はない。だが、共に戦うと言う意味の連携と言えば良いのだろう。いつもとは違う感覚にイーブルは薄く微笑む。


「嫌じゃない、かも」


「それ、ライブに言ったら激怒されるよ」


「です、よね」


 血に濡れた半月輪。二回しか使ってないが最初よりも重く展開がぎこちない。試作品と聞いていたことだけはある。せいぜい使えて後一回、二回だろうか。

 セクトの背を追うようにガレージを抜け、二階に繋がる階段を駆け上がると「うわっ」とリキとセクトがぶつかる。身長さ、ガタイの違いからリキはセクトを突き飛ばすと思いきや重心がしっかりしているため特になく「管理室から奪ってきた」とUSBメモリーをセクトに渡す。


「ありがと」


「後さ、ヤバイもの見ちゃったんだけど」


「何さ」


「一つ目、専属のハッカーが居たらしい。ヤバイと思って逃げたんだろ。キラー以外にもハッカー同士の殺し合いもあった。傍観者も巻き込まれてたらしくてな。そのデータもあった」


「へぇ。それで」


「二つ目、どうやらライブさ幼い頃からイーブルのことを知ってたらしくて。ストーカ並みに壁に写真を貼ってたり、日々の記録が残ってた。元々近くにいたんじゃねーの? 血の繋がってない兄弟とか。訳あって養子にされたとか」


 リキの言葉にイーブルは思い出したように言う。


「そう言えば、よく血を抜かれて『俺の血あげるから』って遊ばれてた。『輸血するとその人の性格が移るって言うだろ?』って。『だからお前は俺なんだ』って」


 その言葉にセクトが突拍子もないことを言い出す。


「あのさ、あくまで俺の推測なんだけど。ライブって本当はイーブルのお兄さんだったりしないよね? 親の事情で養子に出されて、高校生ぐらいに言われたんじゃないかな。それに怒って殺して裏に手を染めて。イーブルのこと調べ上げで親を殺害して、孤児院に来るよう仕組んで仲良くなるふりして――とか。分かんないけどさ、ベタベタしすぎなんだよね」


 苦笑しながら言うセクトにリキは嫌な顔。イーブルはセクトの言葉で何か思い出せそうなのか苦しそうに眉間にシワを寄せ考える。


「親、よく不在だった。共働きにしては一緒に出ていって帰ってきて。なんか名前にしてはコードネームっぽかったかな」


「あーなるほど。殺し屋関係ってこと? それなら話が付く。俺、詳しいから名前言ってくれれば分かるんだけど思い出せる?」


「んー」


 悩むイーブルの声にリキが口を出す。


「父親が殺し屋。母親が泣き屋」


 その言葉にセクトが口を挟む。


「あーらら。怖い。なるほど、素性がバレるとヤバイから二人を切り離して養子に出した。でも、二人の考えとは裏腹な事が起きたってことかな」


「それか、元々裏に落とすつもりで計画してたか。マスターとライブは親子関係らしい。メールの記録や電話の記録かなり残ってた」


「うわっ最悪な案件だね」


 頭を抱えるセクト。だな、と腕を組むリキ。二人の後ろでイーブルは不思議そうな顔で言う。


「じゃあ、なんでこんなに人を」


 その言葉にセクトが被せる。


「君が堕ちないからさ」


「え?」


「善良な人間に育てられたから優しい君は裏の人間にしては適合性がない。それを覚醒させようと人を人形みたいに使ってたんじゃないの。ほら、代わりを探すために」


 優しい目でイーブルを睨むセクト。それにリキは「折り込み中悪いんだけどよ」と二人の間に割り込む。


「俺一人じゃ雑草処理・・・・無理なんだわ」


「雑草……あぁ、こいつらね」とセクトは倒れた人形を指差す。それにリキが続くように。


「二階から作業場見渡せる。そこが狂った人。まぁ、人形だらけで殺処分したい。あのままじゃ、苦しいだろうし。一応、予備武器持ってきてるんだ。使って損はないだろ」


 階段を上がり、どこからか湧いてくる人形をリキが殴り伏せ、セクトが射殺。わざと外した場合、イーブルが鎌で首を跳ね、たどり着いたのは一階の作業場を見学する二階から見渡せる場所。作業場にはゾンビのようにふらつき歩く人が何十人。割れたガラスから様子を伺うと目は充血しており、異様な臭いが鼻に付く。


「酷いね。こんなにいるとは」


 セクトは屈み、隅々まで様子を伺い目があったか素早く立ち上がり視界から消えようと後ろに下がる。すると、獲物を見つけた、そう叫ぶ様に汚い声が響いた。

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