人形2

 ライブと殺しの価値観が違うと知ったのは此処最近のこと。死体を縫い合わせ完成させる。それを、時よりやってくるライブに見せ褒めてもらう・・・・・・。その感覚と「写真撮りに行くぞ」と呼ばれ、人を殺し写真を撮る。その時に得る感覚の違い。


 イーブルの場合――。

 人に認識して貰う。認めて貰う喜び。


 逆にライブは――。

 人を殺し快楽を得ているような印象。


 似ているようで違う感覚に疑問を抱いていた。


「分からない。うっちゃんさん、俺、どうすれば良いんだろう」


 一人悩み、誰にも相談できない苦しさから死体に執着。褒めて貰おうと手を自ら汚す日々。誰か助けて、と寝ぼけながら小さく呟くと――「呼んだ?」とセクトの声が背後から聞こえた。寝返りを打つと横になりニコリと笑うセクトの姿。


「イーブル、助けに来たよ」


 その言葉に無意識に涙が頬を伝う。

 セクトの黒く汚れ、染み付いたスーツにしがみつく誰にも見せなかった不安を吐き出すようにイーブルは初めて弱さを見せるとセクトは優しく抱き締める。


「分かったんだ、偉いよ。君とライブの違い。君は誰かに認めてほしくて、褒めて貰いたくて人を殺していた。でも、ライブは逆に幼い頃に虐待や家庭崩壊、暴力を日々受けてきたから殺して快楽を得てる。褒めてほしいんじゃない、認識でもない。あれは完全に人殺しだよ。君と違って……」


 セクトは背中を擦り、泣き止ませようと優しく叩く。


「ライブに本音ぶつけてやろう。ね? じゃないと君はずっとこのままだよ。今、上八木が引き付けてくれてて、リキは情報ないか探ってる。俺は君の目を覚まさせるために此処に来た。あと、イーブル。うっちゃんの死体を守ってくれてありがとう。バラバラにしてたら殺そうかなって思ってたけど気が変わった。ほら、立って」


 セクトはイーブルを立たせ、頭を撫でる。


「ライブを止められるのは君しかいない。だから、死ぬ気で止めてほしい。君が死んだらオレが始末をつける。言ってること分かるね?」


 セクトはイーブルの目の前に手を出すやパンッと思いっきり手を叩く。それにイーブルは驚き、一歩引く姿に小さく笑う。


「それが本当の君。弱くて静かで心許なくて……。皆の所に行こう。この下らないゲームを終わらせるために」


 セクトはイーブルの手を握り、鉄のドアを開けると目の前には今まで繋ぎ合わせ作った人形がズラリとガレージに並んでおり、中には穴が開いた壁に埋められるようコンクリート漬けにされたモノもあった。目を伏せ、大きく息を吸う。


「これ、俺がやったんですか?」


「うん、そうだよ。君が認めてもらおうと作った作品。でも、大丈夫。また堕ちても俺が君の目を覚まさせる。だから、まずは――」


 目の前に作品と思いきやゾンビのように立ち上がる狂気化した人。一、二、三……と目で追うと十まではないが薬物に呑まれ、ライブに支配された”人形“がいた。獣のように唸る声。人とは言えぬその声にイーブルはセクトの背に隠れる。


「大丈夫。俺、強いから。それとね、君用にレヴェルが面白いものを作ってたみたいでさ」


 背負っていたガンケースを下ろし、中から黒い布で包まれた何かを取り出す。ついでにと傘に扮した対物ライフルを取り出し、鞄を投げ捨て「んふふ、悪い子にはお仕置きだよね」と石突きを”人形“に向ける。


「あの、これ何ですか?」


「使ってみなよ。試作品で完成にいたらなくて数回で壊れるって言ってたけど。レヴェルは人を想像して作ったりするからさ。俺の想像だと”悪“にはピッタリなモノだと思う」


 布をほどくとイーブルの身長より少し小さい鎌。しかし、手に持つと見た目にしては軽く、刃の連結部分には動くよう細工されていた。鎌の刃を上向きに引くように動かすと半月輪。逆に振るう様に動かすと鎌。一本で二役。想像以上の代物だった。


「よくカランビットナイフとかバタフライナイフ弄ってたでしょ。それ見て思い付いたんじゃないかな。ほら、突っ立ってないで手伝ってよ。イーブル、いや――シキ」

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