陰キャだから2

 彼女の元に戻ろうとトイレを出て歩いていると、何やら騒がしい。彼女を取り囲む女性の集団。集団と言っても三人だが説教するように腰に手を置き、上から目線で「だから、キモいんだよ」と聞き捨てならない言葉。

 聞き覚える声。リブに告白しフラれた、やたらぶりっ子だった女性だった。裏を返せば一部では人を貶し、表では良い子を演じる。愚か者。


「ねぇ」


 静かに近づき話しかけると「あ」と声を合わせる三人。琴乃は俯き、悲しげな顔をしており、その顔を見ると今度は殺る気が失せる。


「そういうの辞めたら?」


「は? なによ」


「先輩にフラれてその子に八つ当たりするの」


「なっ!?」


 具合悪さであまり覚えていなく、気にしてないと思ったが、大勢の前で恥を掻いたことは気にしていたらしい。引き連れている二人はクスクス笑い、「アンタ、先輩と付き合ってるんだってね。そっちの方がヤバイんだけど」と否定するかのように突っかかってくる。


 それにイーブルはこう返す。


「あの人は優しい。でも、人を見抜くの得意だからアンタの影でやってること見えたんじゃない。俺もあの人と同じで『そういう人』大嫌いなんだけど」


 グサッと胸に突き刺さりそうな言葉を容赦無く口にする。すると、彼女達の顔が真っ赤になり、グッと悔しそうに唇を噛む。「行こ」と怒りながらドンッと痛む肩にぶつかられ、歯を食い縛ると謝罪も無しに去る。


『コミュ障のお前が女と喧嘩。ヒュー少しは交流するようになったじゃん。今のは惚れるな』


 リブの声に大きく息を吐く。一日でこんなに人と話したことないため、イーブルは正直疲れていた。不意を突くように倦怠感と眠気に襲われ、軽く頭痛と吐き気。それに、学校が終わったらすぐ帰宅というリズムも崩れている。ストレスが半端ない。

 肩を押さえ、軽く動かしては「大丈夫?」と床に落ちていたノートを拾う。彼女の前に置き、椅子に腰掛けると「君の気持ち分かるから……俺も影ではやられてるしね」と人殺しとは思えない優しい言葉を吐く。


「えっ……」


「ほら、映えスタとか嫌なのにやらされてるし。講義に遅れた時だって笑ってた奴いたでしょ。だから、辛いのは君だけじゃない」


『偽善者』。そう思うと笑いたくなる。リブのように社交的で一人を好むなら話は別だが、今回に関しては真似するように寄り添い言葉をかける。そう思ったのはほんの一瞬・・・・・。口にしている言葉は自分のモノではなく、リブがイーブルを腹話術の人形のように言葉で操っていた。思考も何も彼女を信用させようと骨伝導イヤフォンから甘い声で囁く。


「俺はキミの味方だから」


 この言葉を口にした瞬間、イーブルが笑うとヘッドフォン越しリブもクスッと笑った気がした。


「そろそろ帰ろうか」


 ラジオのように流れるリブの声。それでも、イーブルは外すことなく琴乃と駅へ。だが、電子掲示板には『人身事故のため――』と帰宅で混雑した改札前。単なる自殺か、殺しかは分からない。


「どうしよう……これじゃ、帰れない」


 不安そうに彼女が言葉を呟く。「そう、ですね」とぎこちなく返すと『おー、まさかの?』とリブ。『なぁなぁ、女の子と出掛けるの初めてだろ? だった――』と話の途中で骨伝導イヤフォンを外し、ポケットにしまう。


「じゃあ、何処か行きますか……」


 タメ口と敬語が入り交じった口調。話慣れていないせいか混ざってしまう。


「え?」


 彼女の服を摘まみ、「ゲーセン、行こ」と早足で歩き出す。

 駅すぐ正面にある大型のゲームセンター。学校帰りに学生が立ち寄る人気の場所。リブとはボーリングやダーツ、ゲームと暇潰しに遊びに行くが彼以外とは行ったことがない。中に入ると薄暗く機械音で騒がしく、物が多く息苦しい。女性よりも男性が多く、暗くなると口説かれている人を何度も見かけるが一緒に居れば大丈夫だろう。


「何か欲しいのある?」


 スマホを取り出し店内を見て回る。すると、ウミウシの可愛いぬいぐるみを見つけ、それをキラキラと欲しそうに見ている琴乃。話し掛けず表情だけで見抜くと、ピッとスマホを翳してはボタンを押した。

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