3日目
今日は真面目に授業を受けよう。
昨日は結局、俺に無駄に懐いたウリヤーナから笑顔で無理やり寿司を口に詰め込まれた挙句、腹を下して30分以上トイレから出られなかったからな。
体調を整えて気合いを入れていくぞ。
今日の授業は「道徳」だ。
なんだ道徳って。
小学生以来だわ。
小学生時代なんて何年前だと思ってんだ!
………やめよう。悲しくなってきた。
授業開始前の教室はとても賑やかだ。
床に寝転がるやつ。
鬼ごっこをするやつ。
無駄に机を叩きまくってるやつ。
大人数で輪になって喋っているやつ。
みんなそれぞれ好き放題暴れ回っている。
俺の横の奴なんか弁当を食ってやがる。
この学校は食堂があるんだから早弁なんて文化ないだろうと思っていたが俺の勘違いのようだった。
この学校で普通なんて通用しない。
ちなみに俺は机に突っ伏して寝たフリをしながら朝から支給された電動歯ブラシを俺の能力『オーバーロード』でぶっ壊してしまったことを悔いている。
くそぅ、俺陰キャすぎるぅ……!!
その時、俺の肩を誰かが叩いた。
「ねぇ。」
そこには少し背の低い女の子がいた。
背が低いと言ってもここに居るやつら全員妖精になったと同時に身長が100cm未満になっているのでばらつきはあれど身長はあまり変わらないが。
髪がサラサラで大きいリボンを頭に付けた顔が整っている美少女が立っていた。
突然の女の子にまたコミュ障が発動する。
「ひゃ、ひゃぃ。なんでしょ…?」
すると女の子は小さな手を差し出した。
「これあげる。」
何をくれたんだろうと手のひらを覗き込む。
そこには黒い小さなペンが。
「へ、これくれるの…?なんで…?」
「あたし使わないから。あと…」
恥ずかしそうにもじもじしている。
何か言いたいことがあるんだろう。
「ん?なんだ?」
「えっと、友達になるきっかけが欲しくて…。」
「………ほへ?」
その女の子は突然きゅるるんと上目遣いで俺を見つめてくる。
え、なんだ?なんだ??突然のモテ期か??
やっぱり俺は妖精になってモテちゃう運命なのかー!?
それならまあしょうがないよなぁ?
だって女の子が!こんなに可愛い女の子が!
俺にプレゼントをくれるんだもん!
では!どぅはははははは!!
これはモテ期!!モテ期です!ありがとう神様。
有難くいただくぜ……!
「あ、ありがとう!大事に使うよ!」
「うん。ちゃんとインク出るといいんだけど。…押してみて?」
「うん!」
【バッッッッチィィィィ!!ドギャラカァァァァァ!!ピカピカピカポァァ!!】
………なんだ。何が起こったんだ。
俺がインクを出そうとカチッとペンを押した瞬間、俺の手に電気が走り、激しい稲光と共にペンが火花をあげて弾け飛び、そのペンの屍からドデカイ花火がピョ〜っと上がった。
教室が光ってやがる。たまやー。
ビリビリペンの類だろうか。
俺が軽く力を込めた瞬間弾けとんだことから、俺の『オーバーロード』が作動し爆発の威力が増してしまったんだろう。
「きゃはははははは!」
「な!?お前!?」
「まんまと引っ掛かったわね!あたしがあんたにプレゼントなんて渡すわけないじゃない!」
「なっ……!!くっそ!このクソガキーー!」
いつの間にか机の上に立っていた彼女は先程の天使のような顔と打って変わって、悪魔のような笑い声をあげながら俺を見下ろしている。
俺の夢の時間を一瞬で壊された怒りと教室で能力を発動してしまった恥ずかしさから、俺は廊下に颯爽と逃げる女を追いかけた。
「おい!待て!!……このっ!!」
妙に足が早いなこいつ。全然追いつかない。
いや違う。俺が遅いんだ!!
クソガキは余裕の表情で後ろを向き煽ってくる。
「何をそんなに怒ってるのよ!ちょっとイタズラしただけじゃなぁい!」
「だって、ちょっと、なんか、すごく!恥ずかしかったんだぞー!!」
「あははは!あんたはあたしの能力、『リメイク』に見事引っ掛かったのよ!」
「な!?能力だと!!?ずるい!」
「きゃははははははは!!」
真剣に怒っているのに怒り慣れていないせいで言葉が詰まりすぎて逆にダサい。
クソガキはその様子を更に楽しんでいるようだ。
超腹立つー!
そしてヒョイっと角を曲がるクソガキ。
やばい!見失う!
そう思い加速して同じく角を曲がろうとしたその時。
【ピョチョコンッ♪】
「ん!?」
足元にバナナの皮が。
【バッコォォォォォン!!!ガラドサパラッ…。】
見事にバナナの皮を踏み、曲がることができずそのまま滑って壁に激突する。
妖精になって体が無駄に丈夫なので壁を貫通し崩壊させ建物を少し傾かせてしまう程度で済んだ。
良かった。俺は無事。
だが頭がクラクラする。
さすがに猛スピードで壁に突撃すると頭がバカになりそうだ。
「…なっ、バナナの皮?なんでこんなとこに!?」
「あっははははは!!」「きゃはははははは!」
「!?」
そこには先程のクソガキと、そいつと肩を組んだ同じくらいの背の男の子が立っていた。
「やーい!引っ掛かった♪引っ掛かった♪」
「なんなんだお前!」
「ボクはジャック。こっちのマインって子と一緒にクラスのみんなにイタズラしてんの♪」
「……はぁ?」
「楽しいよ?」
「うるせぇー!!クソガキ!!黙れ!!」
「…う、うぅぅ。そんなに怒らなくてもいいじゃん…。しくしく…」
「おい泣くなよ…言いすぎたよ、ごめんって。次からは気をつけてくれれば…」
「え?泣くわけないじゃん?わぁい!また引っ掛かってくれたね♪」
「…………。」
嘘泣きしやがったぞこいつ。
呆れてものも言えない状態だ。
こいつらは手を組んで俺にこんなくだらないイタズラを仕掛けるためだけに近づいてきやがったということか。
なんて腹立たしいクソガキ共。
特に女!!!こいつ!このー!!
男いたなら最初から言えよぉーー!(泣)
「はぁ。もう飽きたわ。教室戻りましょ?」
「うん♪」
俺に興味を無くしたクソガキ共はクルッと踵を返して去っていく。
女の方はゴミを見るような目で俺を見ながら「それ片付けといてね?」と崩壊した壁と潰れたバナナの皮を指さした。
…もうこいつら道徳1で良いだろ。
―――「さあ、みんな道徳の授業を始めますよ」
先程、授業前とは思えないほど散々な目にあった俺は既に満身創痍のまま授業を受けることになる。
担当は真面目なリーフ先生。
良かった。授業内容はちゃんとしているみたいだ。
…横のやつまだ弁当食ってるんだけど。
授業中、生徒はそれぞれのスタイルで授業を受けていた。
花占いを永遠としては凹んでるやつ。
ずっとぼーっとして寝てるのか寝てないのか分からないやつ。
普通に寝てるやつ。
何故か社会の教科書を開いているやつ。
…ずっと弁当食ってるやつ。
その中で1番目立っていたのが「ルナ」という少女だ。
そいつは何故か天井に張り付いてガタガタ震えている。
…なんだあいつ。
「先生。ルナが天井に張り付いています。」
先程のジャックという男が手を上げる。
あいつ教室では優等生キャラやってやがる。
さっきは悪魔のような顔だったのに今ではキラキラ輝いて髪が風に靡いている爽やか好青年だ。
腹立たしい。
だが、よく言ったぞ。
集中出来なかったからな。褒めて遣わす。
あいつはあそこで何をやっているんだ?
「あら、ルナさんどうしましたか?」
「て、天井に張り付くダンスを踊っていたら、怖くて、降りられなくなったの…。」
どんなダンスだ。
「あら、大変ね。」
「じゃあ俺が降ろしてやるよ」
先程まで花占いをしていた男が立ち上がる。
ワドローという男だ。
そいつは座っていたから気づかなかったがとても背が高い。
多分、クラスの中で1番だ。
そいつが手を伸ばすと天井に手が届いた。
降ろしてもらったルナは恥ずかしかったのかプイッとしている。
「ありがと。でも別に怖くなんてなかったわよ!」
「どういたしまして。」
ガタガタ震えてただろうが。
改めて席に着くルナは顔が真っ赤だ。
ツンツンした態度は照れ隠しだな。
先程のガキと比べるとまだ可愛いやつだ。
そういえばさっきのマインという女は教室でどんな風に過ごしているんだろう。
さっと教室を見ると窓際の席でじっと鏡で自分を見ている。
…ように見せかけて鏡で光を反射させて先生の目に当てていた。
いや先生めちゃ可哀想だよ?やめな?
無駄に性格の悪いやつだ。
近づかないでおこう。
そんなことをしている間に授業が終わった。
ザワザワし始める教室でリーフ先生が大きな声でみんなにアナウンスした。
「次の授業ではクラスメイトをよく知るために自己紹介をしてもらいます。名前・好きなもの・嫌いなもの・能力を1人ずつ発表してください!」
「はーい!」
おぉ、明日みんなと仲良くなるきっかけが作れるかもしれない!
よーし、みんなの好きなものを把握して友達作るぞー!
――「…けぷっ。ご馳走様でしたぁ」
隣の早弁野郎がやっと食べ終わったみたいだ。
クラスメイトの髪色はそれぞれ違うが、こいつは赤色だ。
アニメでは赤髪は強キャラと相場は決まっている。
弁当も授業中に呑気に食っていたしさぞかし肝が座った強いやつなんだろう。
そんなやつが俺の方を見て何か言いたそうだ。
…ちょっと怖い。
横の席ってだけでいじめられたりするのかな…。
じーっと俺を見つめてゆっくり口を開く。
やばい。見てんじゃねえよ!とかそっちのパターンだ!
ヤンキー怖いヤンキー怖い!
うわぁぁぁぁぁ!
もうどうにでもなれー!
「……授業まだ始まらないの?」
「もう終わったよ?」
「え、まじ?」
ポンコツだった。
Pixie・Reborn 蓮司 @lactic_acid_bacteria
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