2日目

【ピィヨェンプギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!】


「うわっっーー!!」


ぐっすりと寝ていた俺は爆音で飛び起きた。


「あ、おはよう。よく眠れた?」

「あ、おう、おはよう」


ルームメイトのマグナスだ。

俺よりも先に起きていたらしい。


「あの、さっきの音何?」

「分からない。多分あそこから聞こえたから何かの放送が始まるのかもしれない。」


マグナスが示す先には学校のスピーカーのようなものが。

2人でスピーカーに注目していると明るい女性の声が聞こえてきた。


『ぴーんぽーんぱーんぽーん♪

みぃなさぁ〜ん!おはよ〜ございま〜す!

私は校長のコバヤシで〜す!

今日から授業が始まりますが、まずは朝礼を開きたいと思いま〜す!わ〜!

特に話すことはありませんが、みんなの顔が見たいからとりあえず集まってくださぁ〜い!

体育館で待ってま〜す♪』


プツッと音がして放送が終わった。

何だったんだ。今のが校長…?

昨日から話を聞いてると結構ゆるふわ系だと思ったが、頭までゆるふわだったとは。

女子高生の間違いじゃないか?

この学校にはとんでもねぇのがまだいるのか。


「…それより、この部屋どうした?強盗でも入ったのか?」


そう。昨日はあんなに綺麗に整頓されていた棚やベッドが破壊されている。


「あ、これは俺の能力『Dan・Vince』。

触ったものを全て破壊しちゃうらしい。ごめんなさい。」


略してDVだな。

俺よりエグい能力持ちがいた。

こりゃ可哀想だ。


「で、でも!君の物には触らないようにするから安心して!改めてよろしく!」(にこぉ)


そう言って手を差し出して握手を促される。

俺には見えた。

あの手を握った瞬間俺の右手があらぬ方向にひん曲がる未来が。

指先でも触れたらアウトだ。

俺の体が原型を留めることは難しいだろう。

だから俺はその瞬間、彼に精一杯の拒絶をしてしまった。


「ひぇぇぇ…、さわんなぁっん!!!」

「…きゅぅ。」


…ごめんて。そんなに落ち込むなよ。

部屋の隅でキノコを生やして体育座りをしているマグナス。

塩を浴びたナメクジのように小さくなっている。

じめじめ。めそめそ。ぐすぐす。

大丈夫かこいつ。

今はそっとしておこう…。(逃走)




―――「ここが体育館か。」


マグナスを置いて逃げt、…。一足先に体育館に来た俺は知らない人達が沢山いることに内心ビビっていた。

俺は人見知りのプロだ!なめんなよ!ふん!!

ざわざわと複数人の話し声が反響する空間。

俺よりも先に体育館に来ているやつは結構いた。

大きな声で笑うやつ、踊ってるやつ、寝てるやつ。

さまざまな妖精達が綺麗に1列に並ばされている。

名前の順だろう。俺は前から5番目に並ばされた。

前のやつは何かの花の匂いをスハスハ嗅いでいる。

怖い。ヤバいものじゃなけりゃいいんだけど。

やはりここは変なやつが多いな。


ボーッと人間観察をしていると校長先生らしき人が朝礼台に立つ。


(あ、意外とちゃんとした見た目の人だな。)


先程、スピーカーで120dB(飛行機のエンジンレベル)を記録したであろう声量で喋っていたやつと同一人物とは思えない綺麗なスーツ姿のロングヘアの女性がマイクを持つ。

その人はオロオロしながら話し始める。


「あ、みなさん。おはようございます。今日からみんなの担任になりました。『リーフ』です。よろしくお願いします。」


あれ、校長じゃなかった。

じゃあ校長はその隣の…。


「校長先生のご挨拶です。では校長先生、お願いいたしま「はぁぁぁぁぁい♪」


出た!!!先程のゆるふわ系女子(?)!!

そいつはみんなの鼓膜をぶっ壊しながら爆速で朝礼台を占領した。


「みなさん、ようこそ〜!

入学式みたいな感じですね!パチパチ〜!!

改めまして、私は校長のコバヤシです♪

大事な話があったと思ったのですが、忘れてしまったのでまた思い出した時に言いますね〜!

んじゃおわり〜!」


世界一短い校長の話だ。

有難いが心配になるレベルだ!

何の情報も入ってこない!!こいつが馬鹿という事実が厚塗りされただけだ!!!うん!馬鹿だ!


「あ、校長先生、ありがとうございました。」


ぴょんとどこかへ飛んでいってしまった校長の代わりにまた先程の女性が前に立つ。

とても困った顔だ。苦労が手に取るように分かる。


「ここからは、みんなをお世話する先生方を紹介します。

体育専門の教師、『ヒカリ』。

占い、心理学などの教師『ベイソフィル』。

副担任の『レインボー』。

保健室の先生『サロペット』。

そして担任の私、『リーフ』です。」


おぉ、思ったより多いな。

ヒカリ先生は優しそうでニコニコしている。

それに対してベイソフィル先生は仏頂面。

レインボー先生は不気味な笑顔を浮かべている。

ちょっと近寄り難い怖い教師かもしれない。

保健室のサロペット先生はボーイッシュな雰囲気だが優しそうだ。

教師陣も癖がありそうだな。


「みんなが使う食堂には料理人の『コーナー』さんがいます。とても美味しいご飯を作ってくれますよ。

3日に1回がお寿司ですけど。」


なんでだよ。俺の偏食が進んじまうだろうが!

そういえば昨日から何も食べていないな。

シンプルに腹が減ったぞ。

四六時中開いてるらしいからあとで食堂へ行ってみようか。


「そして、この広い学校にはお掃除ロボットとして、『ミニ ゲッコー 2』という8体の猫型お掃除ロボットがいます。みなさん、無闇に触って壊さないように。」


へぇ、猫か…。可愛いなぁ。

猫ちゃん愛好家としては是非とも8体全てにご挨拶したいものだ!

壊さない程度に撫でくりまわしてやろう!


「教師の紹介は以上です。

みなさんには昨日を含めて7週間、ここで沢山のことを学んでもらいます。

7週間後には卒業して新たに生まれ変わった自分で人間界に戻ってもらいます。

ここでの未練は残さないようにしっかり楽しみましょう。」


え、7週間!?意外と短いな。

まぁこんなところに長く居座っても頭がゆるふわになるだけだからな!

早く人間界でプリティ妖精ちゃんとして活躍するんだ!


みんなで挨拶をして朝礼も終わったらしく、それぞれバラバラに動き出した妖精達。

先程からお腹が腹が減ったと唸っているので俺は食堂へ歩き出した。



――むぎゃっ。


「ん?」


食堂へ向かう途中、何か踏んだ。


「いたぁい」

「え!?女の子!?……ごめぇんー↑んん!!!」


まさか、俺が女の子を踏んでしまうとは。

吃驚した俺は飛び上がってとりあえずスライディング土下座をぶちかました。


「だっ、大丈夫でひゅかっ…!?」

「ん、だいじょぶぅ」


俺は今、滅茶苦茶ダサい。

女の子にまともに話せたことがないので変な日本語を喋る。

心配しているのは伝わったようで、彼女は大丈夫、とひらひら手を振っている。


「……え、何で地べたで寝てんの???」


彼女が大丈夫というので純粋な疑問をぶん投げる。

ここ、廊下ぞ?


「おなかすいたぁ」

「…。」


俺は理解した。

こいつは頭ゆるふわの1人だ!!

だが、こんなところに寝かせておくのは可哀想なので食堂まで引きづってやった。

片足を掴まれてズルズル引きづられても彼女は特に抵抗せずだらんとしていた。

大丈夫か。こいつ。


「食堂ついたぞ。」

「めし!!!肉ーー!!!!!!」


綺麗に並ぶご飯達が目に映った瞬間、そいつは飛び上がりお肉目掛けて走っていった。

なんだったんだ……。


暫くすると走って帰ってきたそいつは手に何か持っていて、それを差し出しながら


「おれい!ありがとん!」


と言ってまた去っていった。

そいつが持ってきたのはマグロのにぎり。一貫。

あ、今日、寿司の日なんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る