第8話 お披露目会

 今、俺は馬車に乗っている。なぜかって?お披露目会に行く為だよ。今日は今まで学んできた事を披露する日。俺は少し楽しみだった。


「お父様、お母様今日は初めてのパーティーでとても緊張してます。でも上手くできそうです」


「それはよかったわ。落ち着いて居れば平気よ。アルは賢いもの」


「ああ、アルフなら大丈夫だ」


 こんな感じで会話をしていたらいつの間にか王宮に着いてしまった。これから初めての社交界頑張るぞー。受け答えや礼儀作法はバッチリだ。


 馬車を降りたらパーティー会場へ向かう。その途中に会った何人かの者に魔物でも見る様な目を向けられた。なぜだろう?今日の俺は魔力を抑えて常人の10分の1程度にしてある。それでも感じるのか、俺の魔力ってそんなに多い?そんなことがあったが会場に無事着いた。


「グラート男爵、男爵夫人、ご子息のご入場」


 そう言って扉を開けてもらい中に入った瞬間悲鳴が聞こえた。


「「「キャー」」」


 なぜだろう、俺を見て叫んでいる。なぜだ!やっぱり魔力なのか、抑えきれていないのだろうか?もう全部魔力を封じてしまえ!


「お父様、お母様俺の魔力そんなに多いですか?」


「アルフお前に魔力はただ多いのではない。魔物や魔族などの魔力に近いのだ。私も薄々感じていたが初めて会う人にこれ程影響を与えるとは」


 それに気づいていたらなら教えてくれ!俺は元獣人なんだ。魔力が異質でもしょうがないでしょう!そんな事を思っていたら、魔法で声を拡張していると思われる声でこんな事を言い出した。


「この方はこの世界でとても珍しい魔属性の魔力を持っています。魔属性はステータス表示されないので気づかない者ですよ。この力が十分に使える様になるといいですね。では、竜馬君頑張ってくださいね」


「女神様」


 俺はいつの間にかそう呟いていた。


(ご名答!私は女神です。よろしければ敬語を控えてローレシアと呼んでくださればいつでもお話しいたします。では魔が身とバレないうちに)


 俺は声で分かった。あの時話した女神様だと。そして確信に至ったのは最後の言葉、俺の前世の名前を知っているのは女神様くらいだからな。


 この気楽な会話は誰にも聞こえていないかな。聞こえてたらまずいんだけど。


いきなりザワザワし始めた。フリーズしていた者たちが元に戻ったのだと思う。


「アルフ今のはなんだ?」


「ローレシアですよ」


「それはどこで出会ったものかな」


 お父様から無言の圧が……はぐらかします。本当のことは言いません。


「夢の中?ですかね。誰だか知らないですけど」


「そいつのことは忘れろ」


(女神を忘れろなんて酷いですわね。)


 また女神様の声がした。この様子を見ると周りには聞こえてないみたい。ちょっと安心した。この声に反応しても周りには聞こえてないみたいだ。


「はい」


(竜馬も返事すんなー)


(お、ローレシアの取り繕いが崩れた)


(もうこの口調でいい?シアも疲れた)


 ローレシアの口調が意外すぎる!そしてかわいい!それは置いといて聴力強化して会話を聞いてみるか?


「聴力強化」


 小声でそう呟き魔力を耳に送る。


「あの子なんか変じゃない?」


「魔物が入れ替わっているとか」


「魔物が化けてるではなくて?」


「でも、あの両親は気づいていなさそうですよ」


「先ほどの声が本当なら魔力を浄化しないとこの国が滅ぶぞ。なんせ間属性には悪い過去しかないからな。」


「あいつも性根が腐っているのか。あんな顔しやがって、実は悪役でしたってか」


 もういい。俺この声に耐えられそうにない。お披露目が終わり次第俺は隠れる。


 あれー隠れるではなくて転移しましょうよ!


「ではお披露目を始める」


 王様がそう宣言したことによりパティーは始まった。順番に名前を呼ばれ、一人一人台に上がり自己紹介、演奏をして終わり。


「アルフ・グラート」


 俺の名前が呼ばれた。俺が台に上がったと同時に会場がざわついた。だが俺は気にせず始める。ちゃっかり声拡張魔法を使って


「アルフ・グラート、グラート家の長男。演奏曲名は「Ikuisesti(永遠)」おそらく誰も理解できていないだろう。これは俺の故郷の言葉ずっと封印していたがもういいだろう。


 この曲は俺のお気に入りの曲、歌詞はないがいい曲だ。この曲を演奏したのは無意識。


 そして台を降りた。


(お疲れ様、じゃあ親に言って先に帰らせてもらおうよ)


(うん)


「お父様、お母様先に失礼します」


 そう言って静かに会場を出た。いつの間にか避けられていたのは気がついていなかった。


(じゃあ魔力を放出して、今はシアがやるから)


(いいの)


(もちろん)


(これ使えるの、この世界でシアだけだから)


(じゃあお言葉に甘えて)


 この言葉を最後に王宮を後にした。着いたのは家の裏の森、そこから歩けば2〜3分だろう。屋敷の前に着いた。いつの間にか服を着替えて屋敷の前にいた俺を見て門番をしていた騎士は驚いていた。


「あの、アルフ様ですよね?なぜここに?馬車もないですし……それより出てまだ2時間ほどですよ?」


「もういいや。パティーは疲れるね。ジャイネに報告頼めるかな?」


「承知しました」


 そう言って騎士は門を開く俺を中に入れ、他の者に代理を頼みジャイネへの報告へ向かった。するとすぐに出てきたジャイネは焦った様子で駆け寄ってきた。


「アルフ様?大丈夫ですか?部屋に戻りましょう」


 そう言って優しくしてくれるジャイネはすごいと思った。


「ジャイネは俺のこと怖くないの?」


「アルフ様がですか?そんなことありませんよ」


 フツーにそう言ってくれるジャイネを見て心を癒していた。そうしているうちに自分の部屋に着いたので寝る準備を整え、部屋に籠ることにした。


 それから後はあまり覚えていない。女神と何かをしていた様な気がする。わからない。何をしていたのかは朝起きればわかるだろう。


〈門番だった騎士〉

 アルフ様が歩いて帰ってきた為、帰っている事を知っているのか伺わなくてはならない。その為に今馬を走らせている。いつもよりも作った様な笑顔が気になったがアルフ様のその表情を作った原因をもう一度思い出させるわけにはいきません。なので旦那様と奥様に聞こうかと。


 猛スピードで馬を走らせたからかいつもより早く王宮に着きました。心配だったのでいいですが。


 会場にいた門番に旦那様と奥様に緊急の知らせがあるといい、身分証明証を見せ中に入った。


「何様ですか?」


「ガルアーク・グラート様とレティートゥア・グラート様に緊急の用事があって参りました」


奥様と旦那様はテラスにいることが多い。なのでまずテラスから探していきます。案の定お二人はテラスでお話をなさっていました。お話をしているところ悪いのですが緊急なので仕方ありません。


「旦那様、奥様確認したいことがございます」


「あらなぜここに?それにアルフがいない事を指摘しないのね」


「アルフ様ならもう屋敷でお休みになっております。なぜか歩いて来たのですがお二人はご存知ですか?」


「「は?」」


 お二人とも声がは持っています。驚くのは無理もありません。


「アルフがこの会場を出てまだ2時間しか経っていませんよ」


「は?」


 今度はこっちが驚かされました。アルフ様が帰ってきてからすぐに出たので最低でも4時間は経っていませんと話が合いません。


「どうゆうことかな?君はわかる」


「いいえ、分かりません。アルフ様が歩いてきた事しか分かりません。」


「もういいわ、聞いても無駄よ。あの子は規格外だから」


「いいわ帰ったら聞いてみるから」


「あなたも一緒に帰る?そろそろ終わるから」


「はい、そうさせて頂きます」


 こうしてアルフ様の社交界は幕を閉じました。

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