時を支配するHolder Ⅰ
「ふっ!」
「くそっ!?」
既に、シャングリラに余裕の表情はない。彼は神剣である天叢雲剣を奪われてからここまで何一つ上手く行っていない。挙句の果てには、八尺瓊勾玉を切り離されたことで、神の如き力を失っていた。それでも、数多のギフトを融合によって取り込んだことは変わっていないので、よくわからない力を使ってくる。
シャングリラは手から雷を放ったと思ったら、足蹴りで空気砲を放ち、周囲の瓦礫を動かしてこちらに投げつけてくる。恐らく、どれもホルダーから奪ったらギフトの力なのだろうが、ただのホルダーへと戻ったシャングリラならば僕の『時間の掌握』には敵わない。
「はい、神代君」
「ありがとう」
日菜に創り出してもらった刀で雷を打ち払い、日菜が手に持っていた天叢雲剣を受け取る。シャングリラの力が急激に落ちたことで、天叢雲剣は暴れまわるような動きは見せていない。この状態なら、僕の意思で振るうことができるだろう。
「……俺を倒して、何になる?」
「今更、命乞いはいらない」
シャングリラが急になにかを語り始めたが、エレボス団長はばっさりとそれを切り捨てた。だが、シャングリラは全く気にした様子もなく口を開く。
「俺を殺したところで、ホルダーの現状は何も変わらない。悪用する奴は悪用し続け、何も知らない愚民たちは表の世界で無駄に生き続ける!」
「それの何が悪い。ギフトを知らない人は、そのまま平穏に生きるべきだ」
「だが、一度知ってしまった人間は二度とその平穏には戻れない!」
呆れた。その平穏から混沌へと引きずり込まれてしまった一般人を巻き込み、戦わせている人間の発言とは思えないな。
表の世界でも、良い奴は良い奴だし、悪い奴は悪い奴のままだ。灰崎慎太は、ホルダーに関わらなくてもきっとああいう人間だった。ビアンコの人間たちもホルダーに関わらなくても、きっと裏社会のギャングとして犯罪を繰り返していたはずだ。
シャングリラが言っているのは、そう言うことだ。
「僕は裏世界に巻き込まれた人間だ。だから言わせてもらうけど、お前のそれはただの癇癪だ」
「黙れっ!」
「もういいシャングリラ。お前のその口から紡がれる言葉には、なんの価値もなんの重みもない……」
エレボス団長は、なんだか悲しそうな顔をしている。この二人の過去がどんなものなのかは知らないが、僕は人を人とも思わないことを平然とやっていたシャングリラを許すつもりなんてない。本来、人が人を裁く権利なんてないのかもしれない。それでも僕は、僕の近しい人を傷つけたシャングリラを許す訳にはいかない。これは、僕のエゴだ。
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