飛来するDesaster Ⅰ
「ダメ……効かない!」
「無敵な筈はないんだ……そんな筈はっ!?」
全く攻撃が効かないことに焦っている椿に、僕は落ち着く様に言い聞かせようとしていたが、加速しているはずの僕ですら一瞬だけ見失うほどの速度でシャングリラが動いた。
「逃がさん」
七十倍で加速している僕に追い付き、どこからともなく持ち出した剣を振り上げるシャングリラに向かって僕は手を翳す。
これはずっとできないだろうかと思いながら、練習していた力。僕のギフトである「時間の掌握」を最大限に活かすために考えた力。そして、さっきシャングリラが見せた時間を進めるという力を見たからこそ成功すると確信できた技。
「むっ!?」
「日菜!」
「はい」
僕が手を翳して能力を発動すると同時に、僕にかかっていた加速が七十倍から十倍程度に減速する。そして、手を向けたシャングリラの動きが一気に遅くなっていく。これは、対象の時間の進みを極端に遅くする能力。普段から使っている加速とは真逆の効果を、相手に押し付ける。
触れることで自らの加速に人を巻き込めるという部分と、さっきシャングリラが見せていた対象の時間を進めるという能力からヒントを貰って考え出した。ぶっつけだったがなんとか成功し、体感的な話だがシャングリラの動きを百分の一程度には減速できている。
日菜は僕の腕から飛び出して、シャングリラとの距離を詰めて強烈な蹴りを食らわせた。百分の一に減速しているはずのシャングリラは、それでもある程度の動きを見せていたが、日菜の速度には反応しきれずにそのまま吹き飛ばされた。
「ぐっ……ちょっと、限界」
「大丈夫!?」
全く使い慣れない感じに時間を弄ったので、普段使わない筋肉を使って筋肉痛になっているような感じだ。減速は使い易いが、しばらくは多用しない様にしないと。
「よくやる……ここまで強くなった俺を相手に、な」
「……嫌になるな」
ここまで、シャングリラの攻撃はまともに受けていないし、こちらの攻撃はかなり当てているような気もするのだが、シャングリラは全く効いている様子もない。余裕の表情も全く崩せずに、ずっと涼しい顔をしている。
「それもここまでか? 死ね」
「おっと、私のことを忘れてしまっては困るなシャングリラ」
十束の剣らしきものを片手にこちらにゆっくりと近寄ってくるシャングリラの背後から、陽気な声が聞こえた。
「…………エレボス、と今は名乗っていたか?」
「少し見ない間に珍獣になったな、シャングリラ」
銀髪を風に靡かせながら、エレボスはニッコリを笑っていた。
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