Shangri-Laの野望 Ⅴ
「ん?」
異形の存在となったシャングリラがこちらに向かって手を翳した直後、さっきまで僕たちがいた場所のモンスターたちが一瞬で塵となった。周囲を破壊した訳でもなく、そのまま塵となった。
「ありがとう、神代君」
「いや……」
シャングリラがなにかしようとしていることと、それが途轍もなくまずい気がした僕は、手を向けられた瞬間に時間を停止させて三人を移動させた。停止させた時間は十五秒。かなり無茶をして時間を停止させていたので、しばらくは時間を止められなさそうなほど疲労してしまった。
「あいつのギフトは融合のはずだろう? 何故モンスターが塵にできる」
「……他人のギフトを、融合で奪っているとか?」
「違うな」
加速もしていない僕では視認することもできない速度で、いつの間にか背後に現れていたシャングリラは、僕の仮説を否定した。
「生物の本能に刻まれた原初から続く死の形。それこそが時間というものだ」
「時間を、進めたっていうのか?」
「ふ……その時間を停止させるホルダーがいるとは思いもしなかったがな」
シャングリラは、なにかしらの方法で時間を急速に進めたことで生物を一瞬で塵に変えたということだ。シャングリラのギフトは融合なので、シャングリラ本人のギフトと言う訳ではない。
「時間を操るそのギフト。俺が貰い受けてやる」
「やっぱり、他人のギフト狙いじゃないか」
「ゴミのようなギフトに興味はない」
つまり、僕のギフトである「時間の掌握」は彼のお眼鏡に叶ったということか。それが本当だとしても、全く嬉しくない。
一気に七十倍まで加速して、シャングリラが時間を進める前に攻撃する。
「確かに速い、が……無駄だな」
僕の加速は充分に通用している。恐らく、この状態のシャングリラでも目で追うのがやっとの速度だろう。だが、攻撃力が圧倒的に足りない。加速の勢いも乗せて僕が振り抜いた刀も、シャングリラの肉体に当たって鈍い金属音を鳴らすだけ。
僕の感覚の中で言えばゆっくりと、しかし背後にいる椿たちからすると途轍もない速度で手を翳し、再び時間を進めようとするシャングリラ。僕に残された選択肢は、三人を運んで逃がすことだけだ。
「っ!? 蓮、そのまま掴んでて!」
椿、日菜、エリーを同時に抱き寄せて加速の世界に引きずり込むと、椿は即座に状況を理解して念動力をシャングリラに向かって放つ。しかし、それもシャングリラには通用しない。
「速いだけ、と思ったが……案外面倒だな」
攻撃の当たらないシャングリラがなにかぼやいているが、それを聞く余裕は僕にない。なんとかこの状況を打開しなければ。
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