砕かれたIllusion Ⅰ

 ニライカナイはすぐさま引き金を引いて銃弾を三発放った。一人に付き一発ずつ放たれた弾丸に対して、エリーはすぐさま姿勢を低くして弾丸が通り過ぎるのを待つ。銃を構えられた人間が取るべき自然な動作なのだろう。ああいった動きができるのは、銃社会に生きる人ならではだろう。


「……人間をやめていますねぇ」


 僕は放たれた弾丸を素手で弾き、日菜は弾丸を指でつまんでそのまま圧力で潰していた。後ろのエリーも呆れたようなため息を吐いているが、ホルダーなんてこんなもんだと思う。


「じゃあ、死んでね」


 ニライカナイが動き出す前に、日菜が地面を蹴って一気に接近していた。加速もしていなかった僕には目で追うのがやっとな速度だったが、ニライカナイは既に幻覚を発動していたらしく、日菜の腕が身体を通り過ぎた。


「……日菜、ニライカナイの幻覚を破る方法は?」


 前回、僕が戦った時は加速の動きについて来ようとする不自然な動きから見破ったが、もしかしたらなにか方法があるのかもしれない。


「さぁ? 周囲諸共消し飛ばせばいいんじゃない?」

「待ってくれ。ただでさえ、あのマンション消し飛ばして、多分表世界にも影響が出てるのに、これ以上やられたら大変なことになる」

「別にいいじゃない。裏世界には人がいないんだから」

「表世界にはいるの」


 なんて危ない思考をしているんだ。やっぱり、子供の頃の純粋さからくる残虐性というのが、そのまま残って成長しているのだろうか。

 とりあえず、僕がニライカナイの幻覚を打ち破る術を考えよう。以前と同じように、加速についてくるような動きは見せないだろうから、なにか考えなければ。


「素顔さえわかれば、私のマッピングでどうにかなるんだけど……」

「まぁ、無理だよな」


 わざわざ仮面を被って素顔を隠しているのも、そういう理由だろう。素顔がバレてしまうと、ギフトが思うように使えない表世界で狙われる可能性がある訳だから。


「さぁ、どうします?」

「私はここですよ?」

「こちらにもいますよ」

「うるさいですね」


 同時に三人のニライカナイが虚空から出現した瞬間に、日菜が幻覚のニライカナイを間髪入れずに三人とも蹴り飛ばした。とんでもない身体能力によって素早く動き、三人を蹴っただけなのだが、それが速すぎて加速のギフトでも使っているのかと錯覚するぐらいだ。


「神代君、しらみつぶしにやりますよ」

「お、おぉ……頑張る」


 どうやら、日菜は頭を使うのが苦手のようだ。椿とどっちが脳筋発想か比べるのは難しいが、残虐性の増した椿だと思って接しよう。

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