温泉地のMonster Ⅳ

「私に立ち向かってくるんですか?」


 加速して蜂を半壊させ、日菜に刀の切っ先を突き付ける。

 余裕の表情を見せるのは、やはり一度戦った時の圧倒的な優位性を確信しているからだろう。エルドラドとして仮面を被っていた時、日菜は僕の加速についてくる力を見せた。加えて、僕のギフトは既に日菜にバレているのに、僕は日菜のギフトを全く持って知らない。この差が大きすぎる。


「……だからって、止まってられない」


 様子見で二十倍に加速した僕は、そのまま真っ直ぐに日菜へと向かって刀を振り下ろす。既に、常人では反応できない速度の攻撃になっているが、日菜は半歩下がるだけで刀を避け、またどこから持ち出したのかわからない剣で反撃の姿勢を見せた。

 すぐにその場を離れて反撃をさせずに、僕はただ日菜の様子を見るしかない。そもそも、どこからどうやって剣を持ち出しているのかもわからない。


「ふふ……安心してください神代君。手足失くしたぐらいの怪我なら、後から治せますから……私にはできませんけど」

「手足失くしたら、多分普通の人間は死ぬと思うよ」

「それも大丈夫です。ホルダーは簡単には死にませんから」


 好き勝手言ってるな。

 ただ、今ので日菜の目的が僕と椿を生け捕ることなのは大体理解できた。とはいえ、昔から何を考えているのかわかりにくい感じではあり、今の狂気的な性格が加わると、いざピンチに陥ったらなにをしてくるかわからない。

 本気で、こちらを殺しに来るかもしれない。


「えい」

「っ!?」


 日菜の動きを注視していたら、懐から銃を取り出してこちらに向かって躊躇いなく発砲した。加速を三十倍まで引き上げて弾丸を刀で弾き、一気に距離を詰める。


「その子は、いらないですよね」

「エリーっ!?」


 一気に近づいた僕は、銃口の角度から日菜が狙っているのはエリーであることに気が付いてしまった。

 椿を庇いながら蜂と戦っているエリーは、僕と日菜の戦いを見ることができていない。

 咄嗟に日菜の持っている銃を弾いて止めようとするが、日菜は僕の蹴りを難なく避けてそのまま発砲した。


「しまっ!?」

「遅いですよ」


 エリーへと向かって放たれた弾丸を叩き落そうと移動しようとして、僕が背中を向けた瞬間に、日菜はギフトを使って僕の足を鎖で拘束した。


「エリーっ!」

「えっ?」


 僕の叫びは届かず、エリーの下腹部を銃弾が貫通していき、隣にいた立ち上がれない椿の顔に鮮血がかかった。


「残念。守れませんでしたね」

「日菜……」


 僕の心から、日菜に対して抱いていた情とか、思い出とかが全て消え去っていく感覚がする。

 この女は、ここで僕が殺さないと駄目だ。

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