温泉地のMonster Ⅲ

「……選ばれた者しかギフトを持つことはできない。神様から選ばれた存在が、贈り物として強力な能力を与えられる。それがギフトの由来です」

「だから、レボリューショニストに与して、ホルダーの存在を堂々と明かすと?」

「そんなことは知りません。私はただ、神代君と椿ちゃんに会いたかっただけですから」


 日菜の発言はおかしい。それではまるで、ギフトに目覚める者がわかるような言い方だ。椿がどうかは知らないが、俺がギフトに目覚めたのは完全なる偶然でしかない。それを、まさか事前に見分ける方法があるのだろうか。


「私たち三人は、運命の糸で雁字搦めになっているんですから、当然ですよ」

「根拠のない自信ってやつね」

「まぁ、見分ける方法はあるんですけどね」


 性格、悪くなった。


「……結局、なんのためにここに来たんだ?」

「後から来たのは神代君たちですよ。私はただ、この子たちの様子を見に来ただけですから」


 日菜が微笑むと同時に、どこからともなく巨大な蜂の群れが現れた。


「また蜂!?」

「落ち着いてエリー……温泉街はゆっくり見て回ったと思ったんだけどな」

「そうなんですか? なら、見落としたんですね」


 絶対にありえない。ということは、日菜が持っているなにかしらのギフトが関係しているのだろう。隠蔽、なんてものでこんな前線で戦ったりはしないだろうが。

 巨大蜂は、巣を攻撃されたかのように怒り狂っているようで、顎をカチカチと鳴らしながら僕たち四人に狙いを付けた。


 巨大な羽音を立てながら僕らのもとへと攻撃をしに飛んでくる蜂を、一匹ずつ処理していく。そんな僕たちを見ながら、日菜は笑いながら蜂の攻撃を見えない壁のようなもので防いでいる。


「ふふ……」


 レボリューショニストの人間である日菜まで狙われているということは、この蜂は向こうが捜査している訳でもなさそうだ。その場合は、本当にこのモンスターを飼育していることになるのだろうか。


「いつまでぼーっとしてるの!」

「で、でも……日菜が」


 蜂に襲われている中、椿は未だに立ち直れていないので、僕が一人で加速しながら蜂を両断していく。その背後で、エリーが椿の胸倉を掴んで叫んでいた。


「本当に、気に入らないけど……私は貴方の実力とか、蓮にとって大切な人間であることは認めてるのよ!? さっさと立ち上がりなさい!」

「…………」

「この馬鹿っ!」


 エリーの言葉に、椿は目を伏せることしかしなかった。

 椿の気持ちも、わからないでもない。僕だって、日菜が生きていて僕らに敵意を向けてきている現状を、完全に受け入れられた訳ではない。それでも僕が立ち上がって戦っているのは、日菜を失った日に、椿を支えると誓ったからだ。


 椿を支える為ならどんな敵にだって立ち向かおう。それが、かつての幼馴染であろうとも。

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