温泉地のMonster Ⅱ
「う、そ……」
「朝倉、日菜なのか?」
「そうだよ」
あの日、僕と椿が失った大切な幼馴染。
日菜がいなくなったことで、椿は一人で立とうと歩き始め、僕は椿がこれ以上壊れないようにしようと決意をした。僕たちの関係を変えた張本人が、裏世界で僕たちの目の前にいる。
「誰よ」
「私は貴方を知っていますよ。エレオノーラさん」
日菜は失踪した時から成長して、僕らと同じ高校生の姿になっている。違う所と言えば、何故か僕と同じ白髪になっているところだろうか。
ギフトで見せられている幻覚である可能性は、ある。そうだった場合は、僕と椿の幼少期を知っている人物が、敵にいることになるのだろうか。僕と椿に都合の悪い幻覚を見せるギフトなのだとしたら、エリーに見えていることがおかしいからだ。
「私ね、あの日……裏世界に連れて行かれちゃったの」
笑顔のまま喋り始める日菜の口から、裏世界という言葉が出てきた。
「モンスターに襲われてね、左腕を食べられちゃって……今は義手なんだけどね?」
袖を捲って出てきた日菜の左腕は、鈍い銀色の義手でできていた。それを見て、椿は発見された左腕の骨を思い出したのか、僕の腕を掴んで強張った。
「なんで、今更僕たちの前に……椿はもっと前から裏世界にいたんだよ?」
「えぇ? 私はずっと前に姿を見せてたよ?」
当然だが、日菜の姿なんて僕も椿も裏世界で見たことなんてない。
否定しようと口を開こうとした瞬間、日菜のポケットの中から出てきた般若の仮面を見て、刀を振り抜いた。
「やだなぁ……危ないよ?」
「……エルドラド」
「思い出してくれた?」
加速することもなく振り抜こうとした刀は、日菜の指一本で簡単に止められてしまった。レボリューショニストの幹部格は、全員が常に顔を隠すための仮面を被っている。般若の仮面を被っている人物は、度々僕の前に姿を現していたエルドラドのものだ。
日菜が生きていて、レボリューショニストの幹部になっている。その意味を即座に理解した椿は、動揺して動けないでいたが、僕が刀を振った時点でエリーはすぐに動き出していた。
「はぁ!」
「んー……私は、神代君と椿ちゃんと話してるんだけどなぁ……消えてくれない?」
「エリーっ!」
攻撃系のギフトを持っている訳ではないエリーだが、単純に裏世界に生きるホルダーとしての能力が高いので、身体能力を強化する手段だけで充分に戦える。ただし、今回は相手が悪すぎる。
日菜はエリーの蹴りを片手で簡単に受け止め、いつの間にか手に握られていた槍を、エリーへと向かって投げつける。
「……優しいんだ。やっぱり、神代君は」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ」
エリーを助ける為に加速して抱きしめたけど、日菜の槍が僕の腕を掠った。
やはり、単純にエルドラドである日菜の実力は、ビアンコの幹部とは比べものにならない。
日菜が敵である現実を受け止め切れていない椿を守りながら戦うのは、不可能だ。
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