失ったPiece Ⅱ

「は?」


 神代蓮は、その日も日常が続いていくものだと思っていた。既に小学生としても高学年になり、周囲の人間も男女で少しずつ分かれ始めている中でも、ずっと同じだった三人は、そのまま生きていくのだと。

 しかし、この日に神代蓮は榊原椿から理解できない言葉を聞かされる。


「だからっ! 日菜がいなくなったんだ!」

「いなくなった? 行方不明ってこと? 全く意味がわからない……一から説明してくれ」

「む、難しいことはよくわからないけど、とにかくいなくなったの!」


 ある日、唐突に朝倉日菜は失踪した。両親によってすぐに捜索願いが警察に届けられるが、一週間経っても全く形跡一つ見つかることがない。

 最初はくだらない家出程度だろうと真面目に取り合っていなかった警察も、神隠しのように証拠一つも残さずに消えたことを重く見て、全国放送されるぐらいの事件となった。


「日菜……無事だよね?」

「…………大丈夫だよ。きっと見つかる」


 神代蓮は、この時点で朝倉日菜が見つかる可能性は限りなく低いと考えていた。しかし、大切な幼馴染の一人を失って、精神的にかなり追い詰められている榊原椿を支えることができるのは、自分しかいないと考えて言葉にしなかった。

 この日、初めて神代蓮は母親の暴力に抵抗した。


 朝倉日菜が失踪してから数週間後、残酷な真実が神代蓮に告げられた。


「……腕の骨、ですか」


 朝倉日菜の両親は、神代蓮のことをよく知っていた。彼が小学生とは思えない程に理知的で、どんなことを話しても受け止めることができる精神力を持っていることを知っていた。だからこそ、幼馴染である彼には警察からの報告を話した。

 結局、彼の予想通りに朝倉日菜は見つからなかった。正確には、腕の骨と衣服の一部が見つかったことで正式に死んだと判断された。世間の誰もがそのニュースを聞いて、未来ある小学生が死んだことに悲しみ、翌日には忘れ去っていった。


 腕の骨だけでも見つかってよかったと、朝倉日菜の両親は悔しそうに泣いていた。


 朝倉日菜の葬儀には、榊原椿と神代蓮も出席していた。この頃には、神代蓮の母親は息子に抵抗されたことがショックで、殴ることもできなくなり、育児放棄状態であった。しかし、彼は母親に育児放棄されようとも一人で生きていくだけの知恵と力があったので、世間的にはなんの問題もないように見えていた。


「うぅ……ひなぁ……」

「……椿」


 葬儀が終わり、墓が立てられても泣き止まない幼馴染を見て、神代蓮は自分にできることがなにかないのだろうかと考えた。

 それ以来、神代蓮は榊原椿と一定の距離を置くようになった。周囲からは仲がよかった幼馴染が死んだからだと言われたが、これは幼馴染にこれ以上の負担をかけないようにしようと思っていたからだった。


 しかし、幼馴染の三人は再び裏世界で出会ってしまった。

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