温泉地のMonster Ⅰ
「……裏世界でも湯気ばっかりなんだな」
関東で温泉地として有名な街にやってきたが、人の姿は一切ない。裏世界なので当然なのだが、温泉から上がる湯気は大量に存在している。
裏世界なので僕たち以外に人は一切いないので、有名観光地を独り占めしている気分でなんだか楽しい。やっぱりこういう雰囲気はワクワクしてしまうのが男の子だと思う。
「歪みねぇ……どこにあるのかしら」
「それを探すのが任務なんだけどね。わからないかい?」
「ご教授ありがとうございます。けど、そういうのは蓮から聞くからいいわ」
こんなところまで来て喧嘩しないで欲しいものです。
なにやらチクチクと言い合っている二人は放置して、僕は一人で温泉街を探索する。歪みが酷いということは、やはりここにもモンスターがいるはずなのだが、見当たらない。歪みが酷いのにモンスターがいなかったら、それはそれで面倒なことな気がするけど、今はとりあえず探索を続けよう。
意気込んで探索を始めてから約一時間後、足湯に入りながら僕らはため息を吐いた。
「全く見つからない……」
「ほ、本当ね……なんでこんなにいないのかしら」
「き、きついよ……出不精の僕としては、観光地を歩き回るだけで疲れるって言うのに」
三人で別れて一時間探索を続けた結果、モンスターの一匹も見つけることができなかったので、足を癒すために勝手に足湯に入っている。日本人的な感性で人がいない温泉に勝手に入るのはどうなのかとも思ったが、そもそも裏世界で人がいる訳ないのだから仕方がない。そう、自分で勝手に言い訳を付けることで入っている。
「そもそも、本当にモンスターなのかしら?」
「裏世界の歪みがモンスター以外に起きるのは、私は聞いたことがないぞ」
「もう一つあるわよ。強力なホルダーが、戦闘を行った時、よ」
エリーのその言葉に、僕と椿は目を見合わせた。強力なホルダーが戦闘を行うと裏世界に歪みが生まれるなど、僕も椿も聞いたことがない。青の騎士団が把握していなくて、ロッソが把握している事象ならばいいのだが、青の騎士団が意図的に隠しているとしたら。なんだか、今回の一件は厄介なことになりそうだ。
「あれ、温泉に浸り中? 出直してきた方が良かったかな?」
「っ!?」
裏世界には、僕たち以外に人はいない。喋りかけてくる者がいるのならば、それは敵だ。
振り向くと同時に修理してもらった刀を抜いて突き付けた所で、僕と椿の目が同じように揺れた気がした。
「……なんで、生きてるんだ」
「久しぶり、神代君」
そこには僕と椿が失った、大切な過去の幼馴染がいた。
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