動き出すTyrant Ⅴ

「ぐぁ!?」


 現在、四つ目の倉庫の中で暴れている僕は、エレオノーラを探してビアンコのメンバーと思わしき人間を片っ端から叩いている。何人か、ギフトを使っているようにも見えるが、加速した僕には掠ることもなくただ蹂躙していく。


「ぐぇ!?」

「ぶがっ!?」


 屈強ないかにもギャングといった姿の男も、怪しい風貌の科学者らしき男も、勝気そうな屈強な女も、妖艶そうなハニートラップ仕掛けてそうな女も、全員を蹂躙していく。


「そこまでだ」

「んっ!?」


 こちらに銃を構えていた男を殴った瞬間に、上からスキンヘッドの男が降ってきた。鉄の床を歪ませながら降ってきた男に、反射的に蹴りを放ったが、とんでもなく硬い感触と共に痛みを感じて後ろに飛び、加速を一端解除して目を向けると見たことがある顔があった。


「……名前、聞いてなかったな」

「そうか。俺はルチェルトラ」

「トカゲじゃないか」

「よく知っているな」


 ルチェルトラと名乗ったスキンヘッドの男は、僕が以前にエレオノーラと蟻退治をしていた時に戦ったビアンコの幹部。ギフトは恐らく自分の身体を硬質化させる力。鉄を簡単に斬れるように鍛えてもらったこの刀でも、小さな切り傷を少しつけることしかできない、面倒な相手だ。


「エレオノーラは、どこだ?」

「上から聞いてなかったのか? こちらに手を出さないようにさせるための人質なんだが」

「青の騎士団なら抜けた。主義が合わなかったから」

「そうかい。なら、俺たちと一緒に……は、ねぇよな」


 途中で勧誘を止めたのは、言うだけ無駄だと思ったからだろう。実際、そんなことを言われても僕はエレオノーラ助けに来ただけなので、断っている。そして、こんな無駄な会話を楽しむつもりもない。


「うぉ!?」


 一気に三十倍まで加速して刀を抜く。幹部格はこの程度なら死にはしない。腕を切断するように、思い切り刀を振り抜くが、やはりスーツを切り裂いて切り傷を少し与える程度だ。ただ、このままやり合えば確実に僕が勝てる。


「ちぃ! だから増援が必要だって言ったのによ!」

「ふっ!」


 ルチェルトラは自分が立っている金属の床を片手で捲り上げ、周囲ごと僕を薙ぎ払おうとしている。しかし、僕の持つ刀は金属のプレートぐらいなら、加速と相まって紙のように簡単に斬れる。


「くそっ!?」


 振り回している金属プレートを真っ二つにして、思い切り顔に蹴りを食らわせてから腹部に刀を刺す。硬質化している影響で、貫通することはないが、加速の影響と合わせて半ばまで刺さったことでルチェルトラが膝をつき、無防備になった後頭部を刀の腹で叩いて意識を飛ばす。

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