動き出すTyrant Ⅲ
「残念、また外れ」
「くそっ!」
ニライカナイの首を堕とすのは、これでもう五回目だ。死体はきっちり五体転がっているし、周囲を警戒しながら戦っているが、全くニライカナイのギフトがなにかわからない。炎を出したと思ったら水を出したり、分身したと思ったら高速移動したりして、複数のギフトを使っているようにしか見えない。
もしくは、ニライカナイという存在は多数いて、俺はそれを一人ずつ倒しているだけかもしれない。
「待て待て……現実逃避する前に、なんとか」
「なんとかできますか?」
「邪魔するな!」
思考を続けようとするとニライカナイが邪魔に入ってくる。はっきり言って鬱陶しいことこの上ないんだが、撃退する方法もわからないのでなんともしようがない。
思考を最初に戻そう。最初に、不死かと思ったが、そんな凶悪なギフトなら事前に青の騎士団で聞かされているだろうから違うと思う。次に、傷が治っているとも思ったが、倒したニライカナイが復活する様子もなければ、傷が治る様子もないのでこれも違う。最後に疑ったのは、そもそも斬れていないということ。
「……これか!」
「お? なにかわかりましたか?」
今までのニライカナイの行動や言葉、ギフトに見える攻撃や死なない理由を考えて、簡単に説明が付くものが一つだけ存在している。
「背中を向けても、逃がしませんよ?」
ニライカナイがこちらを挑発するように近づいてくるが、それを無視して倉庫地帯に向かって走る。当然、それを阻止しようとニライカナイが動いてくる。本来なら、加速した僕に付いてこられるはずがないのだが、ニライカナイは十倍以上に加速した僕の動きに付いてくる。だが、それが逆にいい。
「そこだっ!」
加速した僕に付いてくるニライカナイを無視して、僕はただ違和感のあるものを見つけたかった。さっきまでは、その違和感すらも消されていたが、加速した僕についてくる動きが逆に違和感を引き立たせる。
倉庫地帯へと向かっていた身体を急転換させて、近くにあったベンチを踏み台にして樹木を切断する。同時に、僕の背後からついてきたニライカナイが陽炎のように消え、公園に残っていた死体も消えていき、切断した樹木からニライカナイが飛び降りてくる。
「……幻影、幻覚か?」
「おやおや……バレてしまうとは全く考えていませんでしたよ」
僕がさっきまで戦っていたニライカナイは偽物とかではなく、見せられていた幻覚だったのだろう。つまり、僕は最初から一人で刀を振り続けていただけだ。ただ、頭を働かせたことでなんとかニライカナイのギフトの正体は理解できた。不意打ちで『幻覚』を受けてしまったが、次はギフトを使おうとした予備動作を目視した瞬間に殺す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます