動き出すTyrant Ⅰ

 敵がどこに潜伏しているのかは、対策会議の中で聞いた。海外からの輸入も多くされている港の、すぐ傍にある倉庫地帯にいるらしい。

 レボリューショニストの幹部とビアンコの幹部が集まっているらしいが、どうやればそこに囚われているエレオノーラを助けることができるのか。そこだけが重要だ。ただ、ビアンコの幹部の戦闘能力は大体把握できているが、レボリューショニストの幹部はよくわからない。一度だけ出会ったエルドラドとかいう女は、ギフトに目覚めたばかりの僕では歯が立たないくらいの強さだったが、他の連中がどうかは正直、わからない。


「キィ!」

「っ!? 邪魔っ!」


 バッタのような生物が森の中から飛び出して、襲い掛かってきたが、すぐに斬って捨てる。近道をするために山中を駆けているため、討伐されていないモンスターとよく出会う。さっきもゲジゲジみたいな気持ち悪いヤツと出会って、即座に真っ二つにしたが、生理的嫌悪は消えない。

 しかし、その生理的嫌悪を我慢しながら山を走った甲斐もあり山を抜け、すぐに港が見える高台の公園までは来れた。ただし、ここまでずっと加速してきたので、息切れしてしまっている。


「なんとか、呼吸を整えてから、向かわないと」


 ホルダーになることで身体能力が強化されているが、数キロを加速しながら全力疾走するのは流石に死にそうだ。そもそも、僕の能力は時間を加速しているだけであって、実際に全力疾走はしているのだ。速度がえげつないから数キロ走っているように見えるだけであり、体感的にはそこまで走っていない。


「そ、双眼鏡」


 裏世界ではどんな状況に陥るかわからないからと、小さい双眼鏡を常に持ち歩いていたので、すぐに取り出して港の隣に広がる倉庫地帯を観察する。


「……いない、けど、怪しい」


 双眼鏡の倍率はそこまで高くないが、肉眼で見るよりは鮮明に物が見える。倉庫地帯の周辺には怪しい人影なんて見えないが、その代わりに周囲を巨大な蜂が飛び回っている。近くに巣があるのだろうが、モンスターの巣なんて見たことがないので、恐らくレボリューショニストとビアンコが持ち込んだものだろう。つまり、あの場所の付近に、必ずエレオノーラはいる。


「よし、もう少しだけ、近づいて」

「できるかな?」

「っ!?」


 双眼鏡をしまい、歩き出そうとした瞬間に背後から聞こえてきた声に反応して抜刀斬り。なにかに当たった感触はないが、今は加速していないので仕方がない。


「怖い怖い。反応が速いし、なにより最初から殺す気だ……青の騎士団では珍しいですねぇ」

「あなたは?」

「おや、情報が行っていないのですね? 私はニライカナイ。灰崎慎太君を勧誘……いえ、唆した仮面男ですよ」


 真っ白な仮面に全身スーツ。丁寧な言葉遣いから感じ取れる、明らかにこちらを見下したような声。いきなり出会ってしまった。

 灰崎慎太の名前を口にしたことから、この男は間違いなくレボリューショニストの幹部。

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