蠢くShadow Ⅲ
「無理だ」
「は?」
青の騎士団本部で、重要参考人みたいな形で緊急対策会議へとやってきた僕に対して、エレボス団長が結論付けたものは、エレオノーラ救出は「無理だ」の一言である。周囲の幹部も反対する様子もなく、椿も僕と目を合わせないようにしながら同意していた。
「な、何故ですか? ロッソとは手を結ぶのではないんですか?」
「そうしたいとは思っているよ。けど、そのためにレボリューショニストもビアンコも幹部が揃っているような場所に、青の騎士団だけで攻めて人質が無事に解放できるか。無理だな」
どうやら、ドゥアトさんギフトである『感知』によって、相手が何処に人質を捉えているかもわかっているが、周囲にはビアンコの幹部だけでなく、レボリューショニストの幹部もいるらしい。それを考慮して、エレボス団長は無理だと断定した。
「ろ、ロッソから救援を求めるとかは!?」
「それをすれば、人質が無事でなくなるのはわかるだろう。そもそも、我々青の騎士団が大々的に動いても、人質が無事に返ってくるとは到底も思えん。積みだ」
つまり、青の騎士団はエレオノーラを救う気はないらしい。
「我々に残されている選択肢は二つ。一つは要求を飲んでレボリューショニストとビアンコが日本を蹂躙するのをただ眺めること。もう一つは、小娘一人の命を犠牲にして全面戦争を仕掛けることだ」
エレボス団長の言葉を聞いて、僕は思考から無駄な物が削がれていく感覚を味わった。同時に、周囲にいた幹部格が僕の四肢を抑えつけた。
「……大した狂犬ぶりじゃのう」
「はは、いいじゃないの。若いってのはさ」
しゃがれた声で喋る老人といかにも男勝りといった感じの女性が、僕を取り押さえながら笑っていた。
自覚はなかったが、僕はどうやら殺気を振りまいていたようだ。エレボス団長は楽し気に笑っているし、椿は顔を真っ青にしている。
「青の騎士団の構成員であるのならば、頭の決断には従え。それが組織ってもんだ」
金髪オールバックにグラサンで煙草という、ひと昔前のヤクザみたいな姿をしている奴に言われたが、やはり僕の感情は冷えていくばかりだ。だが、この殺意を向ける先は青の騎士団ではない。
「僕は……一人でも行きますよ」
「そうなると、私たちはお前を止めなければならない。トップの方針に従えないものは、必要ないからな」
「構いません。僕にとって大事なのは組織じゃない……身近な誰かだ」
「蓮っ!?」
椿の動揺した声が聞こえると同時に、周囲の幹部格が武器を抜くが、それより早く僕は時間を停止させる。拘束を解き、時間を停止させた状態で最大の加速をして青の騎士団の本部から抜け出し、裏世界を駆ける。
椿には悪いことをしてしまったが、僕にとって青の騎士団は居場所にならなかったというだけだのことだ。
誰かから非難されようとも、僕は自分の守りたいものを守ることができるなら、それでいい。
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