蠢くShadow Ⅱ

 物陰から高速で移動しながら近づいてきた敵を視認した瞬間に、僕は時間を停止させた。目の前まで迫っていた男の胸元には、道化のマークが飾られていることから、こいつがビアンコのメンバーであることを把握する。

 とりあえず、刀の峰でこちらに向かって伸ばしている右手と、前に出ている左足の骨を叩き折る。別に殺してしまってもいいのだが、情報を得るためにも一人は生かして連れて帰りたい。


「っ!? エレオノーラ!」


 敵を無力化して、時間が停止している状態で周囲の状況をなるべく把握しようと、エレオノーラがいた方向へと視線を向けると、複数人の黒スーツが向かっている姿が見えた。しかし、既に時間停止は限界だ。

 世界の時間が動き始めると同時に、僕は五十倍に加速してエレオノーラの元へと駆け寄ろうとした瞬間に、周囲を見えない壁で覆われた。


「へ、へへ……逃がさねぇよ」

「くそっ!?」


 無力化したと思っていた男が、なにかしらのギフトを発動させて俺の行動を阻害したらしい。すぐに男の後頭部を叩いて気絶させてから、エレオノーラの方へと視線を向けると、既にそこにはエレオノーラの姿がなく、周囲は蟻だらけになっていた。


「…………上等だ。全滅させてやるっ!」


 ギチギチと不快な音を鳴らしながら取り囲もうとする蟻共を殲滅するべく、僕はただ速度による暴力を振るった。




「蓮っ!」

「……椿?」


 蟻の死骸がそこら中に落ちている工場地帯で、寝転がっていた僕の元へと椿と複数人の人影が近づいてきた。


「大丈夫なのか!?」

「まぁ……ちょっと疲れただけだよ。そこの男が、ビアンコのメンバーだ」


 椿に支えられながら起き上がった僕は、倒れている黒スーツの男を指差して告げると、周囲にいた他の人が男を担いだ。


「どうして、椿はここに?」

「……ビアンコが、ロッソの人間を人質に取ったから、邪魔をするなと要求してきたんだ」

「エレオノーラだ……人質はエレオノーラだ」

「そうか……蓮は気にしなくていい」


 気にしなくていい、とは言うものの、エレオノーラと組んでいたのは僕だ。僕のミスでエレオノーラは人質として捕まった訳だ。明らかに、ビアンコのメンバーは僕のことを警戒していて、僕とエレオノーラを引き離すために蟻を使った。もう少し僕が頭を使っていれば、こんなことにはならなかった。


「とりあえず、青の騎士団本部に戻ろう。これから緊急で対策会議をする」

「……エレオノーラは絶対に助ける」

「わかってる。でも、組織としての力が必要だ」


 椿に説得される形で、僕は一度青の騎士団の本部へと戻ることになった。こんなことをしている間にも、ビアンコはレボリューショニストと組んで悪事を働いていると言うのに。そう思ってしまうのは、僕が組織の人間であるという自覚が足りないからなのかもしれない。

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