幕間 忍び寄るShadow Ⅱ
どれだけ神代蓮を攻撃しても、灰崎慎太の気持ちが晴れることはなかった。何故ならば、神代蓮はどれだけ灰崎慎太に暴力を向けられようとも、泣き叫ぶことも許しを乞うこともなかったからだ。毎日、イライラだけが積み上がっていく中で、灰崎慎太は遂にその瞬間を目撃してしまった。それは、自分と榊原椿だけの特権だと思っていたはずのホルダーに、格下であるはずの神代蓮が加わっている。その事実が、灰崎慎太にとっては屈辱でしかなかった。
ただでさえ、榊原椿との関係が進んでいる神代蓮が、自分と同じ特別な人間として青の騎士団に入団すると言う事実が受け入れられなかった。だから、その場の勢いだけで灰崎慎太は神代蓮に向かって襲い掛かったのだ。
結果、前々から青の騎士団内で問題になっていた、周囲の建物全てを破壊しながら目標を達成しようとする粗っぽさが祟って、青の騎士団の団長であるエレボスから直接、謹慎処分を言い渡されてしまった。
「なんで……なんでアイツがっ!」
「おー、荒れてますねぇ」
「な、なんだ!?」
憂さ晴らしのように空き地でゴミ箱を蹴っていたが、いつの間にか背後に見慣れない男が立っていた。真っ黒なスーツ姿に怪しい真っ白な仮面をつけた男に対して、灰崎慎太は反射的に蹴りを放った。裏世界でしか超人的な身体能力が発揮されることはないが、常人を超える能力を発揮することはできる。しかし、スーツに仮面の男はその蹴りを容易く片手で受け止めた。
「いけませんねぇ……初対面の人間に蹴りを向けるなんて」
「なっ!?」
「まぁ、無駄ですが」
自分の蹴りを片手で受け止めるような人間が、普通の人間ではない。灰崎慎太の頭は、すぐに目の前の人間が自分と同じホルダーであることを理解した。そして、恐らく相手が格上であることも。
「青の騎士団所属のホルダー灰崎慎太さん、ですね?」
「……だったらなんだよ」
「我々の協力で、相手に復讐したいとは思いませんか?」
灰崎慎太は、目の前の男が言っていることが理解できてしまった。この男は、自分が攻撃したいと思っている個人がいることを、どうやってなのかは知らないが情報として持っている。そして、この男は自分に対してチャンスをくれているのだと。
「因みに、断っても構いませんよ。もっとも、その場合の貴方は記憶処理を受けて青の騎士団から放り出されるだけでしょうが」
「は?」
「当然でしょう。仮にもレボリューショニストなどという危険な集団と戦っている正義の組織の団員である貴方が問題を起こしておいて、放置しておく訳がない」
男の言っている記憶処理という行為は、灰崎慎太も知っていた。ホルダーでもないのに巻き込まれた人間に対して、裏世界のことを忘れるように処理する方法。ギフトを見ることができなくとも、裏世界のことは知られてしまうので、それを防ぐための措置だ。
「どうします?」
「…………どうすれば、いい」
「ふふふ……共に革命を起こしましょう」
灰崎慎太は、青の騎士団から抜けて一人の男に復讐することを決めた。それがたとえ逆恨みと呼ばれるものであろうとも、もはや灰崎慎太には関係のないことだった。
男は、その返答を聞いて嬉しそうに笑った。
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