爆発するTornado Ⅰ

 灰崎君の謹慎処分から数日間、彼は春木高校にも登校していなかった。周囲は元々不良の灰崎君が登校していないなんて今に始まったことではないので、気にするだけ無駄だと言っていたが、僕はどうしても拭いきれない漠然とした不安を抱えていた。椿にも考えすぎだと言われてしまったが、僕にはそう思えない。


 この僕の直観の如き杞憂の予想が、まさか当たってしまうとは思っていなかった。


 灰崎君の謹慎処分から数日後、僕は椿と共に青の騎士団からの呼び出しを受けて、日曜日にもかかわらず出勤させられていた。なんだかブラック企業に所属する社畜みたいな言い方だが、青の騎士団は活動すればバイト代が貰えるので合っているだろう。

 椿と共に裏世界の騎士団本部へとやってきた僕は、団長室ではなく広い会議室へと通された。中には、複数人の見たことがない人たちが並んでいたが、椿の表情から見るに恐らく幹部たちなのだろう。


「急な集合にもかかわらず、半数以上の幹部が集合してくれたことに感謝する」


 団長であり、会議室の一番奥でドゥアトさんの横で偉そうに腕を組んでドヤ顔をしているエレボスの言葉から、この場にいる人間が全員幹部格であることを確信した。性別、年齢、かなり様々な様子だが、集まっている人数は八人であるため、これが半数以上となると総数は十数人に限られる。


「要件は簡単なこと。青の騎士団の人員、灰崎慎太が裏世界で暴れているのが発見された」

「は?」

「……あの悪ガキか」


 エレボスの言葉を聞いて、僕は口を閉じることもできずについ疑問が口から漏れてしまった。幹部の一人であろう厳つい顔をした大男が悪ガキと言っているのを聞いて、エレボスの言う灰崎慎太が僕の知る灰崎君と一致する。


「暴れているだけならいつも通りじゃないかしら」

「どうやら、そうもいかないらしい。モンスターも複数近くに現れているし、レボリューショニストと思わしき人影も幾つか確認されている」

「あの餓鬼、流されやがったな」


 モンスターとレボリューショニストという言葉を聞いて、複数人の幹部から溜息が聞こえた。

 つまり、灰崎君はレボリューショニストの人間に唆されて裏世界で好き勝手に暴れているということだろうか。レボリューショニストに対抗するための集団である青の騎士団の団員が、あろうことかレボリューショニストに唆されるとは、確かに幹部の人たちも頭が痛いだろう。


「早急に片付ける必要があるんだが……如何せんモンスターが多いうえに強力。そして、周囲で確認されたレボリューショニストは、仮面をつけていることから幹部格であることが伺える」


 裏世界という土俵において、ドゥアトさんの『感知』に勝てる存在はいないだろう。つまり、エレボスがさっきから言っている情報は、全て確定情報だ。


「幹部格は周囲のモンスターの掃討と、レボリューショニストの幹部を捕縛……最悪殺しても構わない」

「灰崎慎太はどうする?」


 刀を持ったイケメンの青年がエレボスに聞いていたが、エレボスの視線が明らかにこちらへと向いた。


「灰崎慎太の対応はそこの男に任せる」

「……誰だ? 新入りか?」

「ヘルヘイムの幼馴染でな。強力なギフトを持っているし、灰崎慎太との因縁もある」

「なら任せるか。さっさと終わらせよう」


 勝手に因縁があることにされているが、大袈裟に誇張しているだけで事実でないとは否定しきれない。

 俺が返答に困っている間に、幹部たちは事件の解決を考え始めてしまった。エレボスの思った通りになっている気がするが、俺が灰崎君をなんとかしなければならないらしい。


「頑張れ」

「覚えておいてくださいよ」


 笑顔でサムズアップしたままそう言うエレボスに、軽く殺意が湧いてしまった。

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