交差するDestiny Ⅲ
「灰崎慎太、君は今、いつも通りという言葉を使ったね」
「ぐぅ!?」
「それはつまり、蓮に対して日常的に暴力を振るっているという解釈でいいのかい? そうだとするならば、私は君を許せなくなってしまうんだが?」
僕と灰崎君の間に割って入った椿には、絶対に逆らってはいけないと思わせるだけの圧力があった。念動力によって地面に押さえつけられている灰崎君の身体からは、所々ミシミシという聞こえてはいけない音が聞こえているし、このまま放置していたらなにをするかわからない。
「椿、やりすぎはよくないよ」
「……蓮、君がそんな風に優しさを見せるからこの男は付け上がってしまうんだよ? やるなら徹底的に叩かなければ」
かなり過激なことを言っているが、これは恐らく青の騎士団幹部「ヘルヘイム」としての顔だ。椿がこれほどまでに過激な対応を取ろうとするのは、幼馴染である僕が日常的に暴力を振るわれていることがわかったからだけではない。きっと、彼女はこんな風に対人で戦う機会が何回かあったからこその経験だろう。
「それでも、クラスメイトをそうやって傷つけてしまうのはよくないよ」
「っ!?」
「……そのクラスメイトに傷つけられていたのは君なんだよ!? なんでそんな平然とした顔で許せるんだ!」
椿は今、きっと僕のことを思って怒ってくれている。それ自体はとても嬉しいことだが、それでクラスメイトで同年代のホルダーが痛めつけられるのはいいことではないはずだ。勿論、僕だって傷つけられたことを忘れた訳でもないし、椿の言う通り先に僕を攻撃したのは灰崎君だ。それでも、偽善と言われようとも狂気と言われようとも、僕は自分が傷つけられた程度では人を痛めつけるなんてしたくないし、見たくもない。
僕の目を真正面から見て本気で言っていることを察したのか、椿は少し怯んだ様子を見せてから灰崎君に向かって放っていた念動力を弱めた。
「わかった。被害者である蓮の意思は尊重するけど、それは幼馴染としてだ。青の騎士団の幹部として名前を与えられたヘルヘイムとして、同じ騎士団員同士での正当な理由なき戦いは認められていない」
「ふざ、けんなっ!」
灰崎君は僕に情けをかけられたと思ったのか、弱まった念動力を振りほどいて僕を攻撃しようと手を伸ばした。
「黙っていろ。お前はこのまま本部に連れて行く……沙汰は団長に聞け」
しかし、椿は即座に再び灰崎君の両手を念動力で拘束して床に押さえつけた。本気で叩き込めば、コンクリートすらも簡単に破壊する威力が出せる念動力が自分に向けられる。それは、どれだけの恐怖なのだろうか。
椿が少し落ち着いたのを確認して、僕は大きく安堵の息を吐いた。
青の騎士団としての活動に異議を唱えることはできないので、連れて行かれることやその後のことに関しては、僕には関係のない話だ。
惚れていた女性にあっさりと取り押さえられ、冷たい目で行いの全てを非難されて殺されかけ、更に逆恨みをしていた男に同情をかけられると、灰崎君のような人物がどのような行動に出るのか。僕はまだこの時には、全く想像ができていなかった。
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