交差するDestiny Ⅱ

 灰崎君が突然攻撃したことに対して、僕は反撃することができずにいた。


「避けてんじゃねぇ!」

「待ってくれ灰崎君!」


 彼は恐らく僕と同じく青の騎士団に所属している裏世界の人間だと思われる。同じ組織の人間を攻撃するのは、流石にまずいだろう。現在進行形で灰崎君がそれをしているが、僕も同じことをするつもりなんてない。


「前にも言ったはずだよな!? お前は榊原と一緒にいるなってよ!」

「……蓮」


 僕が灰崎君にこうして絡まれること自体は、もう仕方のないことだと諦めている。しかし、その内容を椿に聞かれたくないと思っていたのは僕だけだったようだ。灰崎君はそんなことは関係ないと言うように僕に向かって攻撃を続ける。

 ホルダー特有の身体能力の高さで、適当に拳を振るっているだけの灰崎君だが、それだけでもコンクリートを発泡スチロールのようにバラバラに破壊していく。当然、普通の人間が直撃すれば即死しかねない。

 僕は拳を振るわれる度に時間を加速させて避けることを繰り返して、何度も灰崎君に止まるように伝えているが、当たらないと言う事実が余計に灰崎君の怒りを増大させていた。


「高校でホルダーなのは俺と榊原だけなんだ……俺と榊原は選ばれた人間なんだよ! お前みたいなクソ陰キャ野郎が調子に乗ってんじゃねぇ!」

「本当に待ってくれ! 僕もなにがなんだかわかってないんだよ!」

「知るかそんなこと!」


 どうやら、灰崎君が怒っている理由は椿と行動を共にしていたこと以上に、彼の中では間に挟まってきたという扱いになっていることらしい。

 僕らの通う春木高校には、今まで灰崎君と椿しかホルダーがいなかった。灰崎君はそれを、自分と椿が選ばれた人間であると思い込み、それに割って入る形で青の騎士団に入団した僕が気に入らないのだろう。

 人よにっては理不尽だと感じるだろうし、くだらないことだと思うようなことなんだろうけど、きっと灰崎君にとってはとても大切なことだったんだろう。


「お前はいつも通りっ! 大人しく俺に殴られておけばいいんだよっ!」

「っ!?」


 僕は加速した思考の中で、灰崎君の動きが変ったことを察した。さっきまでは身体能力にものを言わせて殴ったり蹴ったりを繰り返していたのに、手を開いてこちらに向けてきたのだ。恐らく、灰崎君は今からなにかしらのギフトを発動させようとしている。

 最初に起きた爆発が、灰崎君のギフトによるものだとしたら、こんな所で使われてしまうと椿にも危害が及ぶ可能性がある。


「ぐぇっ!?」

「え?」

「……聞き捨てならないよ」


 なんとか時間を停止させて発動を阻止しようかと思ったが、その前に椿が僕と灰崎君の間に割って入り、発動した灰崎君のギフトによって起きた爆発を念動力簡単に防ぎ、そのまま灰崎君本人も地面に取り押さえてしまった。


「青の騎士団幹部「ヘルヘイム」としても、蓮の幼馴染「榊原椿」としても全く聞き捨てならない話だ。灰崎慎太」


 僕の前には、下手に動けば殺すと言わんばかりに殺気を放っている椿が立っていた。

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