交差するDestiny Ⅰ
「凄い! 本当に凄いよ蓮!」
「お、おぉ」
椿の押しが強い。
エイの身体を蹴り一発で貫通した後、一気に時間を十分の一程度まで減速させてゆっくりと着地したところに、空を飛びながら勢いよく飛んできた。念動力のことを考えると、多分空を飛んでいるんじゃなくて念動力で透明な床を作り出しているんだろう。
「蓮はやっぱり私のヒーローだ!」
「……ありがとう?」
「うん! 本当に蓮は凄いよ!」
なんだか椿の精神年齢が退行している気がする。まぁ、僕とこうやって二人きりでゆっくりと話せるような機会は小学生ぐらいからなかっただろうから、無意識的に退行しているのかもしれない。
「それにしても……そんなに難しそうなギフトをよく使いこなせるね」
「名前だけだよ」
僕のギフトは既に椿には話してある。確かに、椿の持っているような『念動力』に比べて『時間の掌握』というギフトは、かなり使うのが難しそうな印象があるのかもしれない。しかし、それは単純な言葉に表せられないだけで、僕にとって時間を支配するのは呼吸することと同じようなことになっている。
大仰な名前を僕が付けているだけで、椿が念動力を手足のように使っていることとなにも変わらない。
「それにしても、なんだっけ……スカイスティングレー?」
「そう。空飛ぶアカエイ」
「嫌な名前だなぁ」
日本語訳すると凄い頭悪そうな名前をしている。
「このスカイスティングレーみたいなモンスターは、どこからやってくるのか知ってる?」
「知ってる、と言えば知ってるけど……あんまり詳しくは知らないかな」
「そうなんだ」
少し適当な言い方をしている気がするけど、多分これは椿が喋られない内容なのか、それとも喋ってもらえない内容なのかのどちらかだろう。そうでもなければ、椿は僕に対して基本的になんでも喋ってくれると思う。
「数メートルサイズのスカイスティングレーなんて久しぶりだから、早く本部に帰って連絡しようか」
「わかった」
何を狩ったのかはしっかりと報告しなければならないらしい。青の騎士団って、組織らしい一面もしっかりあったんだな。
椿がスマホに似たような端末を取り出した瞬間に、僕と椿の前方にあった建物が爆発音と共に倒壊した。僕が椿を守るように前に出ると、煙の中から一つの人影が飛び出してきた。
「は? なんでお前が裏世界にいるんだよ蓮」
「……灰崎君」
爆発の中から出てきたのは、高校で僕に暴力を振るっている灰崎君だった。彼が裏世界にいることに驚いてしまったが、それ以上に背後にいた椿の雰囲気が一気に剣呑なものになったことに驚いた。
「お前……榊原と一緒に居るってことは青騎士に入ったのか?」
「一応、ね」
「そうかよ。ムカつく野郎だなっ!」
「っ!?」
突然、灰崎君は僕に向かってすっ飛んできた。比喩表現ではなく、椿と同じように地面を蹴るだけでコンクリートが破壊されて、一瞬のうちに僕の目の前まで迫っていたのだ。咄嗟に時間を加速させて椿の手を取りながら攻撃を避けた僕は、通り過ぎて行った灰崎君の方を見て加速を解除する。
「……ギフトも持ってやがる。イラつくなぁ!」
常々感じていた、灰崎君の暴力性が爆発しようとしていた。
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