踏み込んだUnderworld Ⅴ

「はぁっ!」

「うーん……駄目みたいだね」


 椿が空飛ぶエイに対して必死に念動力を発しているが、距離があるせいかエイは気にした様子もない。悔しそうに僕の横に降りてきた椿は、エイを見上げながらなにかを考え込んでいた。


「どうにかして、近づく方法はないかな?」

「え? どうだろう……僕が投げるとか?」


 椿は悩み込んでいる横顔も凛々しくてかっこいい女の子だなー、なんて考えていると、真剣な顔でこちらに相談してきた。一応、今も仕事中なんだから適当なことを考えていては駄目だな。

 僕のギフトである『時間の掌握』に、椿を上まで飛ばせるような便利な力はない。方法としては僕が椿を投げる、みたいな直接的な物しかないし、人間が人間を投げても大した距離なんて稼げやしない。


「……それでいこう。ただし、投げるのは私だ」

「え、本当にやるの?」

「本気さ」


 冗談半分で言った案が、何故か通ってしまった。まぁ、今の椿の身体能力を見せられると、椿が僕を投げることで距離を近づけるのは現実的なものに見える。


「私が念動力で蓮を飛ばして、そこに足場を作るから蓮はそれを踏み台にしてあのスカイスティングレーを倒してくれ」

「あれ、名前あったんだ」


 てか、スティングレーってことは見えないだけで毒針を持ってるってこと?


「行くよ!」

「う、うん」


 どうやら拒否権どころか、受け答えをするような時間もないらしい。

 椿の前に立ったところ、なにかしらの力によって身体が持ち上げられた。


「お、おぉ……浮いてる」


 なにもしていないのに身体がどんどん上に上がって行く。高所恐怖症の人がやったら本当に怖い経験になるだろうけど、僕はあまり怖いとは思わなかった。多分、このまま下を見たら血の気が引くだろうから、気にしないことにする。


「限界! 足場を作る!」

「わ、わかった」


 椿の念動力はとても汎用的な能力の様だ。念動力とまとめて呼ばれているけど、空気を固めて人間が踏める足場を作るというのはもはや念動力の域を超えていると思う。

 空中で踏むことができる透明の床を手に入れた僕は、あと少し先にいる空飛ぶエイに目を向けた。横幅だけで7mぐらいありそうなエイに、少し顔が引き攣ってしまいそうになるが、今から僕はこれを仕留めなければならないんだ。


「よし、行くぞ!」


 僕は自分自身の時間を加速させて足に力を溜める。時間を加速させることで速さが増し、それだけ力が強く伝わることになる。一気に五十倍まで加速させるとどうなるかもわからないので、十倍程度で済ませているが、これでも単純に100mを1秒少しで走れる速度が僕には身に付く。それだけの力があれば、僕は跳躍だけでエイに届く。


「落ちろ!」


 少し飛び過ぎてしまったような感じもするが、今度はすぐに時間を停止させることでエイの動きを止めてしまう。こうすれば攻撃を外すことはない。

 落下する速度も、自分の時間を加速させることで速くすることができる。十倍だった速度を三十倍にすることで一気に加速した僕の蹴りは、停止した時間の中でエイの身体を容易く貫通した。

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