踏み込んだUnderworld Ⅳ

「あ、蓮……なにもなかったかい?」

「ん。ちょっと書類に名前書いただけ」


 リーダーであるエレボスとの間で、ほんの少し一触即発の雰囲気になりかけたが、別に話す必要はないだろう。椿を心あまり配させたくないし、この組織のことはそれなりに気に入っていそうだったから。


「それで、僕はこれで正式に青の騎士団に入った訳だけど……なにするの?」

「あー……基本的にはあの怪物みたいなやつ、モンスターを退治するのが仕事さ」

「モンスター、ね」


 確かに、しっくりくる名前だ。あれは正しくモンスターと呼ぶべき存在だろう。僕を襲ったキメラ芋虫は明らかに超常の生物であったことは間違いない。椿が一蹴してしまっていたが、今考えるとあれはそれなりに強いモンスターだったのではないだろうか。


「とりあえず、裏世界ではモンスターなんて山ほどいるから、それを退治しに行くよ」

「え、今から?」

「今からさ。モンスターは倒せる時に倒しておいた方がいい……あれはそういうものさ」


 らしい。

 全く理解できないが、椿がそう言うのならば俺も普通について行けばいいだろう。


 モンスターというのは、裏世界に山ほどいると椿が言っていたが、どうやら椿のような幹部格が動くモンスターはそう多くないみたいだ。何故それが分かるかと言うと、僕の目の前にいるモンスターを見ればわかる。


「空を飛ぶタイプは厄介だね」

「……それ以前の問題でしょ」


 現在、裏世界の渋谷で僕と椿は人のいない道路を上を向きながら走っていた。渋谷の上空にいるのは、作り物と思い込みたいほど大きいエイだ。もう一回言うが、空を飛んでいるのはエイだ。意味が分からない。


「もっと速くいくよ!」

「え、無理だからギフト使うよ?」

「それでもいいさ!」


 もう一つ意味が分からないのは、身体をなにかしらの力で強化しているんだろうけど、椿は自動車位の速度で道路を走っているのだ。

 多分、60km/hぐらい出てる。秒速に変換すると16.66m/sぐらいで走っていることになるので、100m走なら6秒ちょっとあれば走り抜けられることになる。更に問題なのは、そのスピードを初速から出して、尚且つ既に一分近く続けていることだ。明らかに人間が出していい速度じゃないんだが、まだ速く走れるらしい。

 因みに、僕はそんなことできないので大人しくギフトを使うことを決めた。


 僕は高校でやった100m走のタイムが大体14秒ぐらいだったので、今の椿に追い付くには二倍より少し速いぐらいでいい。もっと速くいくと言ったが、それに合わせて三倍にしてしまうと一気に椿を追い越してしまう可能性もある。僕の『時間の掌握』は中々面倒な能力だと思うが、緻密に計算しなくても感覚的に使用できるのでいい方だろう。


 と、こんな無駄なことをして並走している暇があったら、僕が二十倍くらいまで加速して飛び掛かった方が早い気がしてきた。早いと言っても、僕には加速して攻撃する方法が殴る蹴るぐらいしかないのが問題だと思うけど。あんなデカい空飛ぶエイに対して有効打が与えられるほど、身体能力に自信がある訳ではない。


 やっぱり、モンスターを仕留めるための武器が欲しいな。それがないと、話にならない気がする。

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