踏み込んだUnderworld Ⅱ

 あの、人だけがいなくなったような裏世界とやらから出た記憶は曖昧だった。なんか椿が機械みたいなものを使ったと思ったら急に光で前が見えなくなって、いつの間にか椿から電話を受けた路地裏にいた。一瞬、夢かとも思ったけど、椿が傍にいてさっきの機械みたいなものを手に持っていたので夢ではなかったらしい。


 色々と怪我も負ったこともあって次の日の学校は大事をとって休みを取った方がいいと、椿に言われたが、身体のどこにも傷なんて残っていなかった。ただ、休みを取った方がいいと言われた理由はわかった。


「……ここ、どこ?」

「裏世界さ」

「ここも?」

「そう。裏世界はしっかりとした世界として根付いている場所だから、別に住んでも問題ないよ。人はいないけど」


 なんか、いきなり僕が一人で住んでいる部屋に椿がやってきたと思ったら、今から出掛けるとか言われて連れ出された。そのあと、知らないオフィスビルのエレベーターに乗せられたと思ったらまた裏世界とやらに来ていた。

 エレベーターに乗ったら知らない世界に来ていたとか、すごい男心をくすぐられる話だが、椿に連れられて歩いている廊下が凄い高級そうで身が縮んでしまう。


「さ、着いたよ」

「着いた?」


 着いたと言われても、そもそもどうやって連れてこられたのかもよくわからないし、何処に行くのかも言われていないので全くわからないが、目の前の大きな扉の向こうにはきっとお偉いさんがいることだけは理解できた。


「失礼します」

「し、失礼します」


 椿が扉を開けて普通に入っていくから、俺も後ろからついていってそのまま中に入った。すると、中は思ったよりシンプルなデザインをしていたが、やはりドラマとかで見る社長室みたいな広さがあって少し委縮してしまう。


「おぉ、ヘルヘイム! そいつが言っていた新人か!?」

「へ、ヘルヘイム呼びはやめてください。恥ずかしいです」

「そうか? お前はどう思う?」

「私はそれしか名前がないのでなんとも」

「かー……つまらん反応」

「殴りますよ?」


 椿が入室したことに気が付いたのか、高そうな椅子に座っている少女が嬉しそうな顔を見せた。少し薄暗い部屋の中で、光に反射して煌めくような銀髪に全てを見抜くような赤色の目をした、僕より年下に見える小さな少女。椿の反応から見て、彼女がこの組織のトップなのだろうか。

 そして、その横に秘書のように立っている怜悧な目をしている眼鏡をかけた黒髪の女性。椿と共に入室してきた僕を、その青い瞳が捉えた。


「神代蓮様、ですね?」

「は、はい!」

「そう緊張するな。ようこそ『青の騎士団』へ……私が団長のエレボスだ。訳あって本名は語れないが許してくれよ?」

「私は青の騎士団の参謀のようなものをしている、ドゥアトと申します。お見知りおきを」


 やはり、彼女たちが青の騎士団とやらのトップ。エレボスと名乗った少女が組織の頭で、横にいるドゥアトと名乗った女性が恐らく組織内でナンバー2に近いような立場の人。


「積もる話もあると思うが、まず初めにそちらの意思を聞きたい。青の騎士団に入団して、私たちと共に戦う覚悟があるかどうか……だ」


 今回、僕が連れてこられた理由は僕が入団するかどうかの意思を確認する為。椿が少し心配そうにこちらを見ているのも、そういう理由だろう。

 だが、僕は入団する前にどうしても話しておかなければならないことがある。

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