踏み込んだUnderworld Ⅰ

「すごい……本当にマーダーを倒してしまうなんて」

「椿、怪我は大丈夫?」

「う、うん……」


 どうやら椿は僕がこのイカレピエロを倒せたことに驚いているらしい。まぁ、能力に目覚めたばかりの人間が、あおきしとやらの幹部らしい椿を倒そうとしていた敵を、対して苦戦せずに倒してしまったらそうもなるか。

 ただ、僕はこの能力に目覚めたことで椿を守れたのならばそれでいい。


「よしよし」

「な、なぜ頭を撫でる!?」

「いや、椿は僕の知らないところでこんなに頑張ってたんだね」


 僕の本心だ。確かに、このマーダーとかいうのを倒したのは僕だけど、知らない世界に迷い込んでしまった僕を守ってくれたのは椿なのだ。きっと、こうやって色々な人を助けているのだろうと思うと、なんだか誇らしい気分になってくる。


「ん……って、そうじゃなくて!」

「どうかした?」


 昔から椿は頭を撫でられるのが好きだと思ってたけど、流石に高校生になって好みが変わったのかな。確かに、中学生になってからは頭を撫でるような距離感で接したことは少ないからなぁ。


「今回、社会の裏側に蓮が巻き込まれたのは、素質があったからだ」

「素質?」


 そういえば、マーダーも椿も天然がどうとか言ってたな。


「いいかい? 私やマーダー、蓮のように特殊な能力を持つ者を「ホルダー」と呼び、その特殊な能力を「ギフト」と呼んでいるんだ」

「……わかった」

「人間がギフトに目覚める方法は二つ。一つ目は生まれ持ってギフトの素質を持っていた者。蓮も私もこちら側の人間だ」


 どうやら、天然というのは生まれた時から能力……ギフトを持っている人間のことを指すらしい。自覚はなかったが、僕も生まれた時から持っていたのだろうか。


「もう一つは、この裏世界に実っている「知恵の果実」を適正者が食べること」

「知恵の果実?」


 知恵の果実って言うと、聖書でアダムとイブが食べた?

 リンゴだったりザクロだったり、ムギだったりするあの知恵の果実だろうか。


「知恵の果実って名前を付けられているだけさ。その正体は全く何もわかっていない……この裏世界もね」


 どうやら、椿もこの不思議な世界のことを知らないらしい。

 多分、椿は「あおきし」とかいう組織に出会ったことでこうやって裏側で戦っているのだろう。今、椿の口から伝え聞いたことも恐らくその組織の人間が言っていることなんだと思う。少し、怪しさがあるような気がする。


「椿は「あおきし」っていうのに属してるんだよね?」

「その「青騎士」は別名で、正式名称は「青の騎士団」なんだけどね」

「騎士団?」


 騎士団とはまたごついイメージが付きまとう組織だが、国が関係していたりするのだろうか。


「いい? ギフトに目覚めた人間には三つの道がある」

「三つ?」

「そう。私たち青騎士と共にモンスターなんかの怪物と戦うか、記憶処理を受けてギフトのことを忘れて過ごすか……能力を悪用して暴れまわるか」


 最後のは多分、マーダーのような人物たちのことを言っているのだろう。

 ただ、マーダーは僕が一般人だと知った瞬間に「組織に来るか?」と勧誘していた。

 社会の裏側でも、面倒そうな組織が動いているようだ。

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