目覚めるPower Ⅴ

「この鉄筋でなんとかしてみる」

「こ、殺しては駄目だよ?」

「なんで?」


 マーダーは僕たちを殺そうとしたんだ。ならこちらも殺す覚悟で挑むのが普通であって、その結果マーダーが無惨に僕に殺されたとしてもそれは仕方のないことのはずなんだ。だから、椿が僕を止める理由は理解できない。

 ただ、純粋な疑問として聞き返した瞬間、椿が僕の目を見て怯んだことで、なんとなく僕が間違っている気がしてきた。そうだ……どこまでやられたって別に殺す必要なんてない。そういう話だ。


「わかった。なんとか無力化してみるよ」

「う、うん……気を付けてくれ」


 マーダーの能力は、僕の持っている鉄筋なんて割り箸をへし折るような力を発揮できるだろうが、それは攻撃が当たればの話だ。

 結局、どこまで対策を立ててもマーダーは僕の加速を視認することすらできないんだ。やり様は幾らでもある。


「……きタか……てッキンごトきでキズつケルことなンテでキないコトはワカっテるはズだ」

「どうかな」


 僕の加速は勢いに乗って殴れば人を殴り飛ばすどころか、コンクリートすらも破壊することができる。ならば、その状態で鉄筋を叩きつければ、普通の人間なら人体を切断できるだけの力になるはずだ。そこまでしなければ、どこまでも硬いマーダーには有効打を与えられない。


「おマえの「カソく」ハたしカニきょうイだガ……もウミきッタ!」


 マーダーの背後から現れた二つの手は、コンクリートの塊を抱えていた。恐らく、そこら辺の建物を破壊して手に持ってきたんだろうが、その程度の攻撃は見てからでも避けられる。

 再び加速してマーダーを置いてけぼりにした僕は、足元に仕掛けられている落とし穴のようなものに気が付いた。


「マンホールの蓋を、開けておいたのか。コンクリートの塊で進行方向を区切り、そこから蓋を開けたマンホールに落とす。いい方法だけど、僕の能力は思考も加速している!」


 僕の速度についてこられるのは、僕の思考速度だけだ。こんな落とし穴は見てから簡単に避けることができる。

 加速の勢いを乗せてマンホールを飛び越えて鉄筋を振り上げる。これを後頭部に出も叩き込めば絶対に気を失うはずだ。


「終わりだ!」

「……よそクどオりのウゴきヲスル。やハりしロウと、ダナ」

「はっ!?」


 振り上げた鉄筋になにかがぶつかった。上を見ると、そこには高圧電線が垂れ下がっていた。いつの間にか切断してあった高圧電線は、僕の持つ鉄筋と触れ合った瞬間に、人間が感電死するには充分すぎる電流を流し込む。

 このままでは僕は死ぬ!


「がハっ!?」

「このままでは、だけどね」


 高圧電線と僕の持つ鉄筋が触れ合った瞬間に能力を発動して、鉄筋を捨てて僕はマーダーの背後へと回り込み、落ちていたマーダーのナイフを拾って背中から刺した。


「ば、カなッ!? でンりゅウ、は、ヒカりの、そクどと、ホとんドカワらなイぞ!?」

「あー、僕の能力がまだ加速だと思ってるのか」


 つまり、マーダーは僕が単純に加速して電流が伝わる前に鉄筋を捨て、そのままナイフを拾って刺したと思っているらしい。


「僕の能力だと加速は五十倍くらいが限界なんだ」

「ご、ジュう?」

「そう。僕は自分の『時間』を五十倍ぐらいまで加速させて動いていた」


 僕の超高速の動きの理由はそこにある。僕は自分の時間を加速させることで誰よりも速くなり、思考速度もそれについてくるようになる。身体の負担がとかではなく、単純に今の出力では五十倍くらいが限界だ。


「そして、鉄筋と高圧電線が触れた瞬間に『時間を停止』させて逃れた。停止した時間の世界では、電流なんて流れていなんだよ」

「こノ、ギフと、は」

「これが、僕のギフト『時間の掌握』の力だ」


 口から血を流しながら地に倒れるマーダーを見て、僕はようやく安堵の息を吐けた。

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