目覚めるPower Ⅲ
「まずは相手の射程を考えるんだ。巨大な手を出現させると言っても、無制限じゃないはずなんだ」
「わ、わかった」
椿を落ち着けた僕は、こちらをじっと見つめているマーダーへと視線を向けた。
「さくセんカイぎはオワりか?」
「充分だ」
「そうカ、なラシネ」
前動作なしで巨大な手がマーダーの背後から出現する。やはり腕の振りとは関係ない所から出現するようだ。だが、巨大な手は絶対に二個までしか現れず、必ず背後から現れている。それが能力の条件ならば、やはり椿と僕で勝てる。
マーダーの背後から生み出された二つの手は拳となって僕に向かってくるが、椿が片手を伸ばして二つを同時に止める。そして、もう片方の手をマーダーの方へと向ける。
「むダ。オマえのネンどウりょクはたいサくズミだ」
「やってみなければわからないさ!」
どうやら、椿の能力……ギフトは念動力のようだ。サイコキネシスとも呼ばれるその力は、物体に触れずに意思の力だけで動かすことができる力。
僕に向かってきていた拳を止めているのも、念動力なのか。そうなると、今から椿がマーダーにやろうとしている攻撃はかなり威力が減衰されてしまうだろう。
「……そノおとコをマモるチカらにシュウちゅウしスギて、シュつりょくガおちテいルな」
「くっ!?」
意思の力で物体を動かすということは、逆に言うと意思が及ばないものには力が働かない。
現在、椿は二つの巨大な手を念動力で止めているので、マーダーに攻撃するための出力が足りていないのだ。その状態でも周囲の様子を見る限りコンクリートを砕く程度の出力が出ているというのに、マーダーは拘束されているだけで気にする様子も見せない。恐らく、ゲームや小説で言う所の魔力みたいな力で防御しているのだろう。
ここは、僕が二つの手の範囲から逃れることしか攻略方法がない。
「それモむダ」
「くっ!? 蓮!」
僕が射線嬢から逃げようと移動すると、マーダーは巨大な手を消してから再び出現させて僕に向かって放つ。それを防ごうと椿が念動力を飛ばそうとした瞬間、拘束から逃れたマーダーが椿に向かって走りだした。
「オソい!」
「しまった!?」
椿が自らの身を守るために念動力を一点に集中させようとした瞬間に、マーダーは足を止めて手を放つ。つまり、椿の念動力を封じて僕に向けるのがマーダーの狙い。あくまで始末する順番は僕が先で、椿は後からのようだ。
椿の直線的な性格をよく把握した上での行動だが、一つだけ計算から抜け落ちていることがある。
「僕の能力を計算に入れていない!」
「なッ!?」
再び世界が遅くなる。迫ってくる二つの手が、赤子のはいはいよりも遅く見える。こんなものを避けられない人間が存在しない。
いや、厳密には世界が遅くなっているんじゃない。僕の全てが加速しているんだ。身体の動きも思考速度も、全てが速くなっているんだ。だから、今の僕が力いっぱい踏み込めばコンクリートを叩き割るくらいの威力が出る。能力を認識すれば、切り替えもなんだか上手くいく。
マーダーの認識できない速度で後ろに回り込んだ僕は、そのまま加速の勢いを乗せた拳を顔面に叩き込んだ。
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